社説:生成AIと教育 考える力を委ねぬよう

 対話型人工知能(AI)「チャットGPT」など生成AIの利用について、文部科学省が作る小中高校向け指針の原案が判明した。

 グループ学習で論点を補うなど有効な活用法を示す一方、テストに使うのは不適切といった注意点をまとめた。

 企業や行政で業務の効率化などを目的に利用が急拡大する中、教育現場では「子どもの考える力が奪われるのでは」と戸惑いが広がっている。

 指針は「使いこなす力を意識的に育てる姿勢が重要」と強調する。ただ、急激な進化を続ける生成AIに対し、大人でも容易でない課題ではないか。

 社会全体のルール作りと並行し、適切な指導の在り方と児童生徒への影響を慎重に見極めていくことが欠かせない。

 原案では、有効な活用例として授業の班別討論でアイデアの参考にすることや、高度なプログラミング学習などを挙げた。不適切な例では、成績評価に関わるテストや詩・俳句の創作、芸術活動への安易な利用に注意を促した。

 子どもたちの批判的な思考力や創造性を損なう懸念に言及し、「限定的な利用から始めることが適切」としたのは当然だろう。

 そもそも生成AIの多くは未成年の利用を制限し、チャットGPTも使えるのは13歳以上で、18歳未満は保護者の同意が必要だ。

 学校向けのチェックリスト案で、年齢要件に加え、誤情報を含む恐れのある生成AIの性質と限界を事前に学ぶことを前提としたのは重要である。個人情報の漏えいや著作権侵害のリスクを含め、情報リテラシーを育むことこそ今後に不可欠な力といえよう。

 夏休みを前に、読書感想文や作品コンクールで生成物を自作と装うのは、不正行為と指導する必要性も指摘した。自分で考える力が身に付かないと本人や保護者に丁寧に説明し、理解を促したい。

 ただ、学校で何をどこまで教えるかは明確といえない。現場の声をもとに、柔軟に指針を見直したい。教員への研修や支援策も求められる。

 大学教育では「負の側面を克服しつつ、積極的に活用を試みるべき」と国立大学協会が提起したが、論文・リポートへの利用を含め、各大学の対応は模索段階だ。欧州連合(EU)の初の包括的AI規制案など各国で進むルール議論を踏まえ、教育への影響を考慮すべきだろう。

 AIの提案を吟味する思考力と見識を養わねば、社会の発展に役立てることはできまい。

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