33年ぶりの日経平均高値はバブルではない。その要因となったのは企業の資金不足?

株価が上がってくると「バブルだ」という人がいます。今の株高は実体経済を表していない、というのです。しかし、実体経済とは何を指すのでしょう。経済は目に見えませんからGDPなどの経済指標で確認することになります。主要エコノミストの予測では2023年度の名目国内総生産(GDP)成長率が4%と32年ぶりの高水準になるといいます。この春の賃上げ率は30年ぶりの高い伸びとなりました。


33年ぶりの株価高値はバブルではない

経済が成長し、緩やかなインフレが定着し、そして賃金も上がる。日本経済はうまく回っているように思えます。これらを受けて株価は33年ぶり高値をつけました。けっして実体経済からかけ離れているとは思えません。

マクロ景気も重要ですが株価にとっては、なんといっても企業業績と金利が重要です。その企業業績は3期連続で最高益を更新することが見込まれています。そして日銀の植田総裁は辛抱強く大規模な金融緩和を続けることを表明しています。業績は最高、金利は当面上がらないとなれば株価が上がるのは道理だと思えます。

「バブルだ」という人は、「上がり過ぎだ」といいたいのでしょうか。株価が上がるのは道理だと納得してもここまでの株価急伸は納得できない、と。それは水準感、つまりバリュエーションの議論です。日経平均の予想PERは先日15倍を超えました。15倍は確かにここ数年では高い水準です。しかし、アベノミクス相場開始以来の2013年からの過去10年平均は15倍強。やっと過去平均並みに戻ったに過ぎません。

本当のバブルというのは、いまから30年以上も前の、80年代末期の相場を指すのでしょう。日経平均が史上最高値をつけたのが1989年末の大納会。その時点のPERは60倍を超え、まったく理論的に説明のつかない状況でした。いまの15倍は前述した通り、過去の平均並みであり、かつ海外の市場と比べてもかけ離れた水準にありません。

さらにいうと、日本株のPERはもっと高くなってもよいと考えます。なぜなら日本経済ならびに日本企業に成長期待が出てきたからです。

成長株のPERが高いのは、みなさんご存じでしょう。成長期待が高まるとバリュエーションが切れ上がるのはファイナンスの理論で説明できます。GAFAMやテスラなどの革新的企業が続々と誕生する米国株市場のPERが高いのも、米国の成長期待の高さの反映です。そして、ようやく日本にもその成長期待が出てきました。

日本の成長性が乏しかった要因とは?

6月23日金曜日、日経新聞は1面トップで「設備投資 最高31兆円」と報じました。2023年度の設備投資動向調査で、全産業の計画額は前年度実績比16.9%増の31兆6322億円となり、当初計画ベースで初めて30兆円を超えたといいます。電気自動車(EV)の世界的な需要拡大や人手不足の中で人工知能(AI)など生産性を向上させるデジタル分野の投資も活発になってきています。

これまで日本の成長性が乏しかったのは企業の投資不足が一因でした。1990年代はじめまでは、家計部門が主要な資金余剰部門であり、資金不足である企業や海外等に供給していました。企業部門は1990年代初めまでは資金不足でしたが、それ以降資金余剰に転じました。稼いだ利益の範囲内でしか設備投資をしません。企業はおカネをため込む一方で、日本経済は企業の資金余剰≒投資不足≒低成長という悪循環に陥りました。

この構図が変わろうとしています。背景は、いろいろな要素がうまくかみ合ったから、としかいいようがありませんが、そのうち大きなものを挙げましょう。まずインフレです。日本は何年も前からずっと0%金利でしたが、足元でインフレになったせいで「実質金利」がマイナスになりました。こうなったら借金の妙味が出てきます。マイナス金利というのは借り手が利息をもらえるようなものだからです。それこそ、おカネを借りてでも投資したほうが得だという状況になっています。

企業にとっても設備投資のニーズは多様化かつ喫緊の課題になっています。人手不足を解消するための自動化・機械化、DX、GXを推進するための投資などコロナ禍で抑制されていた需要が一気に動き出している感があります。

もうひとつは東証のPBR改善要請です。手っ取り早く企業評価額を上げることを目論んで、増配や自社株買いなどをため込んだキャッシュを使って実施する企業が後を絶ちません。小手先の財務テクニックでは企業価値は高まらないという冷めた意見もありますが、単に使い道のないキャッシュを抱きかかえているよりはずっとましです。

実質マイナス金利や東証の要請などに背中を押されるようにして企業がおカネを使い始めました。企業は資金余剰の状態から資金不足の状況へと変わりつつあります。それは銀行の貸し出しを増加させ、設備投資を増やし、日本経済を好回転させる原動力になるでしょう。これが日本でも成長期待が高まったとする根拠です。

株価はまさにこのような日本経済の大転換を捉えて33年ぶり高値にあります。けっしてバブルではありません。

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