社説:防衛産業の支援 不透明な救済では困る

 国内の防衛産業を支援する生産基盤強化法が、先の国会で成立した。

 民間企業の製造工程の効率化経費などを国が負担し、事業継続が困難な場合は国による工場の買い上げや新設も認めて、強力に関与する内容だ。

 衰退が指摘される国産の装備品を着実に調達し、有事の際も戦闘継続能力を保つとするが、支援対象はあいまいで負担が膨らむ恐れがある。

 個別企業の不合理な救済にならないか。支援の必要性や妥当性について、国は情報を公開し、透明性を確保しなければならない。

 法に基づく基本方針案では、サプライチェーン(供給網)やサイバー攻撃対策の強化などの経費を国が負担する。企業の認定にあたっては、「装備品の安定的な製造に不可欠か確認した上で防衛相が認定する」としている。

 事業継続が難しい工場については、装備品を製造する請負業者が存在することを前提に買い上げを認める。工場の老朽化や事故、災害などで操業が不可能な場合は「国が新規に建設する」方法も示した。

 背景には、防衛事業からの企業の相次ぐ撤退がある。売り先が防衛省のみで市場が小さく、利益率が低いとされる。

 建設機器大手のコマツは2019年、装甲車の開発を中止し、21年には三井E&S造船が艦艇事業を他社に譲渡した。

 島津製作所も、防衛省からの受注が中心の航空機器事業について本格的な再編を検討している。

 ただ、防衛産業への特別扱いが過ぎれば、官民の癒着を招き、不採算事業を国が丸抱えすることになりかねない。国会での厳しいチェックが欠かせない。

 政府は昨年12月に策定した国家安全保障戦略で、防衛産業を「防衛力そのもの」と位置づけ、強化に取り組む方針を明確にした。

 さらに、武器を含む防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」の緩和を検討している。生産基盤強化法では、装備品の性能などの秘密漏えいを防ぐため、関連企業で働く民間人への刑事罰も盛り込んだ。

 「稼げる産業」として防衛産業を立て直そうと、装備品の生産に国が直接関与する前のめりな姿勢が目立つ。

 憲法上認められるのは、必要最小限度の自衛力のはずだ。過度な防衛産業の押し出しは、国内外に平和国家の変容と受け止められかねないことを自覚すべきだろう。

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