問題の先送りに過ぎず、約束を果たしたとは言えまい。
関西電力は福井県に対し、県内の原子力発電所で保管している使用済み核燃料の一部をフランスに運ぶ計画を伝えた。今年末までとしてきた搬出先の確保について「約束はひとまず達成された」との認識を示した。
ただ、県との約束は核燃料を一時保管する「中間貯蔵施設」の県外設置である。詭弁(きべん)を弄(ろう)すれば信頼を損なうばかりだ。
運転開始から40年を超えた美浜原発3号機(美浜町)、高浜原発1.2号機(高浜町)の再稼働を巡る曲折が背景にある。
関電は2021年2月、中間貯蔵施設の県外候補地は23年末を最終期限として確定させると約束した。国内再処理などの行き場がなく、県内にたまり続ける状況に、県が再稼働の条件として強く求めたからだ。関電は決まらない場合、3基の運転を停止するとも明言した。
ところが、関電が示した青森県むつ市の中間貯蔵施設を電力各社で共同利用する案は、むつ市が抗議するなど、候補地の選定は難航を極めている。
新たに関電が示したのは、高浜原発の使用済みプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料約10トンと、使用済みウラン燃料約190トンの計約200トンをフランスに運び、混合して再処理する計画だ。MOX燃料の再処理技術の確立を急ぐ電気事業連合会の実証研究の一環で、20年代後半に搬出予定という。
関電はこの計画を「中間貯蔵と同等の意義がある」(森望社長)と強調し、原発再稼働に前のめりの資源エネルギー庁も関電の主張に同調した。
しかし、搬出量は県内にある使用済み核燃料の5%に過ぎない。当初計画の2千トン規模の中間貯蔵施設と比べても少量で、約束を再び先送りするための一時しのぎと言わざるを得ない。
法令違反が相次ぐ関電だが、これも信義則に反しないか。説明を受けた県議会から厳しい批判が噴出したのは当然だろう。
福井県に隣接する京都府と滋賀県の原発30キロ圏内には約16万人が暮らしている。災害や不測の事態で京滋の住民に影響が及ぶリスクも否定できず、無関心ではいられない。
使用済み核燃料をどうするかは関電だけの課題ではない。
全国の原発で保管されている使用済み燃料は約1万8千トン。大手電力の保管容量の7割を超え、限界に近づきつつある。使用済みMOX燃料は国内で再処理できる施設がなく、最終処分は方法も場所もめどが立たない。
関電の奇策は、再処理が進まないまま、「核のごみ」を増やし続ける原発に依存するエネルギー政策の矛盾を改めて浮き彫りにしたとも言える。
岸田文雄政権は原発の最大限活用へかじを切ったが、使用済み核燃料の処分問題を置き去りにすることは許されない。