海外で人気…福井県に住む「妖怪絵師」米国人イラストレーター マット・マイヤーさん、画集は累計2万冊売り上げ

「日本の妖怪話は(ストーリーにそれほど脈絡がなく)ロジックで説明しきれないところが面白い」と語るマット・マイヤーさん=6月23日、福井市の福井県文書館

 「妖怪絵師」を名乗る米国人イラストレーターの男性が福井県福井市にいる。独学で日本の妖怪譚をひもとき、4冊の解説付き妖怪画集を出版。海外で高い人気を誇る。評判は福井県文書館の専門家の耳に届き、越前に伝わる奇談怪談を紹介する同館企画展とのコラボに発展。怪異譚のワンシーンを描いたおどろおどろしい絵が会場に並び、注目を集めている。

 米ニュージャージー州出身のマット・マイヤーさん(40)。フロリダの芸術大時代に浮世絵版画に興味を持ち、石川県金沢市にホームステイして伝統文化に触れた。2007年に英語講師として来日し、福井県越前市に滞在。同市の女性と結婚し、一時帰国を挟んで17年に再来日して福井市に暮らす。

 妖怪絵師への転身は09年10月。ハロウィーンにちなみ、妖怪の絵を毎日一つずつブログに投稿したのが始まりだった。河童(かっぱ)や天狗(てんぐ)、ぬらりひょん、大入道…。文献やネットで容姿や故事来歴を調べ、英文解説とともにアップすると、海外で大きな反響を呼んだ。

 学生時代に小泉八雲の「怪談」を読んだことはあったが、ブログ投稿時に参考にしたのは江戸時代の浮世絵師、鳥山石燕の「画図百鬼夜行」だった。妖怪の種類と伝承の多様さもさることながら、どこか憎めないユーモラスな姿形をした妖怪たちに「恋をした」。

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 高じた妖怪愛は、雪女やのっぺらぼう、鎌鼬(かまいたち)、口裂け女、一つ目小僧など“代表選手”を英文解説付きで紹介する画集出版へと発展。クラウドファンディングで数千万円を集め、書籍化した4冊で累計2万冊近くを売り上げたという。フランス語、スペイン語、イタリア語に翻訳され、妖怪文化を福井から世界各地へ発信している。

 評判を聞きつけてコラボを持ちかけたのは、妖怪研究で知られる県文書館主任の長野栄俊さん。「越前国名蹟考」「真雪(みゆき)草紙」など江戸から明治期の地誌や随筆集に記された23の奇談怪談を紹介する企画展。それぞれの話の象徴的場面をマイヤーさんに描き下ろしてもらった。

 命日になると九十九橋に柴田勝家の亡霊が出るという言い伝え。大火に見舞われる福井城下の上空に大きなうちわで炎を煽(あお)る巨大な法師がいたという話。九つの頭を持つ竜の伝承。胴体から抜けた首が浮遊する抜け首の話…。

 伝承の舞台の地に足を運んで山の稜(りょう)線や川の蛇行具合を確かめ、文書館から城下絵図を取り寄せるなど、時代考証とディテールにこだわった。「福井ならではの妖怪を描く夢がかなった」と喜ぶ。

 企画展「マット・マイヤーさんのイラストで読む越前奇談怪談集」は8月23日まで。

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