ひきこもり30年、介護で働く喜び知った 51歳男性、青森県社協「ワークサポート」で施設職員に

入居者の水分補給の介助を行う鈴木さん。「介護の仕事はやりがいがある」と語る=6月8日、青森市の特別養護老人ホーム「三思園」

 長い間、働いていない人が青森県内の介護施設などで短期間働くことで、就労意欲を高める県社会福祉協議会の「ワークサポート」事業は、2019年10月の事業開始から23年3月末までの3年半で、57人が介護の仕事を体験し、実際に働き始めた人もいる。約30年間、ひきこもりがちだった男性は2年前から青森市の介護施設に勤務。「ワークサポートが一歩踏み出すきっかけになった。働く喜びを知った」と語った。

 青森市の鈴木哲也さん(51)=仮名=は専門学校卒業後、仕事に就かず、自宅で家事を手伝ったり、本を読んだりしていた。「就職しなければ」という焦りはあったが、小中学校でいじめられた経験が心の傷となり、人と接することに不安を感じていた。

 親の収入で生活していたが、10年に父が死去し、母も15年に病気で他界。誰も頼る人がいなくなり、孤独を深めた。貯蓄もほぼ底をつき21年、生活保護を受けるため、同市の生活福祉課に相談。そこでワークサポート事業を知った。

 ワークサポートは、長く働いていない人に就労のチャンスを提供するため、介護の仕事を体験してもらう事業。応援金として1日千円を支給する。県社協の取り組みに賛同する介護施設などが働く場となる。

 鈴木さんは事業を利用して21年8月、青森市の特別養護老人ホーム「三思園」で短時間勤務を始めた。週3日1日3時間、ベッドメーキングや掃除など介護助手の仕事を行った。最初は不安があったが、自宅で病気がちの親の世話をした経験があったため、それほど違和感なく仕事になじめた。働く充実感と達成感を知るとともに、入居者から「ありがとう」と感謝される喜びを味わった。

 就業体験を終え、同年11月に三思園の職員として採用された。現在は、週5日1日7時間、高齢者の居室の掃除、リネン交換、食事介助や水分補給などをきっちりと行う。「ワークサポートがなかったら、一歩踏み出せず、もがいていただろう」と語る鈴木さん。今は、終活に関する資格を取ることが目標だという。

 鈴木さんをこれまで励ましてきた三思園法人本部経営企画室室長の阿部一樹さんは「鈴木さんは施設にとってなくてはならない存在」と話す。

 県社協によると、事業開始以降、3年半で57人が県内26福祉施設で介護の仕事を体験した。年齢は、10代から50代と幅広い。不登校やひきこもり経験の長い人が、社会経験を積むために申し込んだケースもあった。

 実際の就業数は把握していないが、鈴木さんのような就職事例は複数ある。

 五戸町の社会福祉法人・素心の会は、ワークサポート体験者2人を職員として採用。職員は介護の専門資格を取得するまでステップアップしている。照井史子施設長は「就業を諦めていた人がチャンスを与えられて、生きがいを感じて働いている」と語った。

 県社協社会貢献活動推進室の葛西裕美室長は「体験できる施設をさらに増やすことが課題。施設側の一層の理解や協力を得て、就業実績をもっと増やしていきたい」と話した。

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