逃走ペットの捕獲網とは呼ばないで 不審者の動き封じる「刺股」が大胆進化中 兵庫県警

不審者に網を覆いかぶせることができる「ネットキャッチャー」を取り付けた刺股=兵庫県警本部

 学校園などに常備され、不審者の動きを封じる防犯器具の「刺股」が、大胆な進化を遂げようとしている。先端をつかまれ、押し返される弱点があったが、兵庫県警は先端に網を取り付けた改良品を開発。網の「ぐにゃぐにゃ」が反撃を抑え、虫捕りの要領で相手の接近を防ぐという。安全かつ一網打尽にできるとの触れ込みで、早速、とある実績も残している。

相手の反撃に弱点

 刺股は、長さ2メートル前後の金属製の棒で、離れた場所から相手の体を押さえ込めるよう先端がU字になっている。原形は江戸時代の原始的な護身グッズで、安価で入手しやすく、警察だけでなく学校園や福祉施設など、官民で幅広く導入されている。

 だが、単純な構造ゆえ、懸念されるのが相手の反撃だ。実際、昨年7月には東京の私鉄駅で、鎌を持って改札に入ろうとした男を駅員が刺股で制止しようとしたが、U字部分をつかまれ、押し返される様子が動画で流れた。

「ぐにゃぐにゃ」を重視

 「腕力に自信のない一般人が手に取ることを思うと、相手が反撃する力を逃がす構造が欠かせない」。兵庫県警装備課の開発チームは抜本的な対策を考えた。

 浮かんだのが、先端に園芸用のネットを取り付けるアイデアだった。網をかぶせて相手の動きを封じるだけでなく、仮にネットの枠を捕まれても、弾力性があるため押し返す力が伝わらず、反撃のリスクを抑えられるとひらめいた。

 網の「ぐにゃぐにゃ」感を重視し、枠には適度な強度と曲がりやすさを兼ね備えたバネ鋼を採用。持ち手付近のボタンを押せば、折りたたまれた網が前方に勢いよく広がり、相手に覆いかぶさる仕掛けにした。傘を開くように簡単に設営できる「ポップアップテント」を参考にしたという。

 仮に狙いを外しても相手が驚き、網に凶器が絡まったり、刺股の柄の部分をつかみ損ねたりしている隙に、壁などに相手を押し込めば制圧できるという算段だ。

試作品で捕まえたのは…

 開発チームは、昨夏にあった県警内部の「装備資機材開発改善コンクール」に試作品を出品して入選。その後も改良を重ねてきた。

 試作品の名前は「ネットキャッチャー」。今年4月、芦屋市の民家から逃げ出したペットのイグアナの捜索用に貸し出された。5月には同市内の小学校のプールサイドで深夜、ルアーに絡まってじたばたしていた野生のサギを捕まえるのに成功した。

 もはや名実ともに捕獲網になりつつあるが、開発チームリーダーの福島正雄警部補(65)は「刺股以外の棒にも取り付けられるよう汎用性を高め、普及につなげたい」と、県民の安全・安心のためなら意に介さずの様子。

 もちろん原点のこだわりも捨ててはおらず、「網は変幻自在にできているので、刺股の効用は一切損なわない」と強調。今夏のコンクールで再び利便性をアピールし、量産化と実装を目指す。 (井上太郎)

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