神戸で山側は北のはずなのに…「知っとった? あっちが西って」 ギョーザ店の看板が正しいワケ

「あっち(山側)が西」と書かれた看板=神戸市中央区東川崎町5

 「知っとった? あっちが西って」

 神戸ハーバーランド(神戸市中央区)、湊小学校近くの派手な看板が目に留まった。「あっち」と矢印が示す先は、山側だ。通常の“神戸の常識”で言うと山側は北になるが、実際は西で、看板の通りである。もしや、この看板の掲出主は、頭が混乱しそうな神戸駅周辺の方角についてよく知っているのではないか。

 本シリーズ神戸駅編の1回目で、「方角の不思議」と題した記事を載せた。神戸駅舎は南北に長く、駅を出た後「山側が北、海側が南」という地元の“常識”が通用しない。実際は「山側が西、海側が東」なのだが、思い込みからか周辺の施設名が混乱している現状も紹介した。

 看板を出しているのは、ギョーザ店「餃楽(ぎょうらく)」を営む椎原(しいはら)剛さん(48)だと分かった。神戸駅から見て兵庫駅方面にある東川崎交差点の角で店を構える。正確には神戸駅の「南側」になる。

 「神戸駅周辺の方角についての記事を読みました。私もすごく不思議に思った経験があるんですよ」

 椎原さんは2018年に店を構えた後、案内チラシを作った。普通なら「神戸駅から南へ徒歩すぐ」などと記載すれば良いのだが、それが通用しないことに頭を抱えたという。

 「正確に『南』と書くと、おそらく皆さんはハーバーランド方面へ行きます。でも、『西』とするのも不正確だし、どうしたものかと…」

 中央区で生まれ育った椎原さんも「山は北、海は南」と体に染みついている。神戸駅近くで店を開くに当たって、「これまで経験したことがない」と感じたという。

 駅周辺を何度も歩いて回り、案内看板を見たり市販の地図を確認したりした。そして「神戸駅周辺は神戸の常識が通用しない」と確信し、チラシには「神戸駅から須磨・明石方面へ」「大きな交差点の角」などと記したそうだ。

 看板は、そんな悩みを経験したからこそ生まれた。屋外広告の制作会社に勤めていた椎原さんは、看板を見た人に「なんやろこれ?」と興味を持ってもらおうと、自らデザインを考案して描いたという。

 矢印を示した方向(西側)には、JR線や国道2号、山などのイラスト。そちらへ向かうとギョーザ店「餃楽」があります-。そんな思いを込めた。

 神戸駅に悪気はないのだろうが、やはり多くの人を悩ませている。(安福直剛)

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