開業74年の銭湯、常連の若者らが再生 立ち飲みスペースやライブイベントも 神戸

「先代が大事にしてきた清潔なお風呂を守りたい」と松田悠さん(右)。先代店主の妻・元木美智子さん(左)は「良い人に巡り合えた」と感謝を口にした=いずれも神戸市兵庫区東山町2

 「神戸の台所」東山商店街のそばに、開業74年の湊河湯(神戸市兵庫区)がある。阪神・淡路大震災直後は、被災した人たちに風呂を提供したこともあった下町の銭湯だ。今年1月に先代店主の元木淳さん(享年81)が亡くなり、存続の危機にあったが、若い世代が担い手となって今夏、再スタートを切る。(風斗雅博)

■震災と水害

 湊河湯は1949(昭和24)年に開業。ジェット風呂やスチームサウナ、露天風呂などを備え、70年頃からは2代目の淳さんと、妻美智子さん(77)らが切り盛りしてきた。

 95年の阪神・淡路大震災では、浴場や機械室が損傷したが、1週間ほどで営業を再開。近隣の商店街には入浴整理券を配り、被災した人たちの心と体を温めてきた。「寒い中、長蛇の列でね。心苦しいけど入浴時間を制限させてもらいました」。美智子さんは振り返る。

 実直な人柄だった淳さんは、休みの日も機械の整備を欠かさなかった。新湊川の水害で再び機械室が被害に遭ったときも「死ぬまでやる」と口にしたという。高齢になり、近年は店休日を増やすなどして営業を続けてきたが、昨年9月に淳さんが脳梗塞で倒れ、店は休業。淳さんは入退院を繰り返し、今年1月に肺炎で他界した。

■静かなオアシス

 存続の危機に陥る中、継業を申し出てきたのが「ゆとなみ社」(京都市)の松田悠さん(32)たちだった。同社は、関西を中心に銭湯継業に取り組んでおり、淳さんの長男で現オーナーの英雄さん(49)=造園業=は「松田さんたちの強い思いを聞き、任せられると感じた」と話す。

 店長となる松田さんは、関西学院大在学中からここに足しげく通った元常連客。商店街の近くにたたずむ湊河湯を「静かなオアシス」と表現し、「お風呂はいつも清潔で、番台に穏やかなご主人がいる店の雰囲気が大好きだった」と懐かしむ。

 現在、営業再開に向けて改装が進む。脱衣所を見渡せる昔ながらの番台は撤去し、受付カウンターにした。立ち飲みスペースも設け、新開地の地ビールや商店街で売っている総菜も取り扱う予定だ。一方で、店の歴史を受け継ごうと、靴箱や傘入れ、タイルなどは再利用するという。美智子さんは「店を大事にしようとする心遣いを感じる。またここでにぎやかな声が聞けるのは幸せ」と笑顔を見せた。

■30年で激減

 30年前は銭湯が47軒あった兵庫区も、現在はわずか8軒に。利用者を増やすために、松田さんは「ご新規さん」の獲得にも意欲的だ。6月25日には、アーティストを招いて浴場でライブイベントを開催。参加者には特別入浴券を手渡し、再開後の銭湯をPRした。

 改装工事をしていると、立ち止まって見ていく住民もいて、「ええやん」「はよ開けてや」などと声をかけてくれるという。松田さんは「ここは人情がある町。まずは地域に愛される店にしていきたい」と意気込んでいる。

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