「怖い」「感じ悪い」今や昔…侍Jの栗山元監督も愛用、サングラスが遂げた驚きの進化

サングラスの浸透でマイスター大学堂も多彩なメーカーの商品をそろえる=神戸市中央区、マイスター大学堂

 最近、デーゲームでサングラスを着用しているプロ野球選手が目立つ。他の競技に目を向けても陸上やゴルフ、テニスに多い。背景には、強い日差しに対応したレンズ、激しい動きに耐えられるフレームの技術進化がある。どんな点が改善されたのか。神戸の職人に聞いた。(津谷治英)

ずれないフレーム、紫外線で色変化

 平日の昼下がり、神戸・三宮センター街の眼鏡店「マイスター大学堂」を訪ねた。店頭にはワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で侍ジャパンを栄冠に導いた栗山英樹元監督が愛用する眼鏡モデルを展示。店内にはサングラスが並ぶ専門コーナーがあり、多彩な種類が並ぶ。久利将輝専務(50)は「最近人気です。店ではここ10年で販売数が倍増している」と話す。

 人気は世界規模で拡大している。業界向け情報を発信する「Report Ocean(リポート・オーシャン)」によると、世界のサングラス市場の規模は2021年からの7年で年平均4.2%拡大すると推測。27年には181億6400万ドルに達するとみる。

 日本人に影響を与えたのはマラソン選手だ。バルセロナ五輪(1992年)で銀メダル、アトランタ五輪(96年)で銅メダルを獲得した有森裕子選手、アテネ五輪(2004年)金メダリストの野口みずき選手の姿が記憶に残る。長時間走る競技では強い日差しが選手の敵になる。まぶしさを防ぐために着用したスポーツサングラスが、瞬く間に陸上界に広がった。

 さらに久利さんは技術進化を指摘。光を防ぐなら「偏光レンズ」を薦める。まぶしさや太陽光の照り返しを抑えられ、釣り愛好家は海面のぎらつき対策に使う人が多い。

 一方で、多彩なアスリートに対応しているのが「調光レンズ」。紫外線の量で自然と色の濃さが変わるのが特徴で、屋外ならグレーや茶色などに、屋内だと透明に近くなる。「テニスは屋内外のどちらのコートでも使える。ゴルフならコース中は濃い色に、クラブハウスでスコアをチェックする際は薄くなる」と久利さん。度入りレンズを眼鏡として兼用すると、もっと便利だ。

 フレームの安定感も大きい。一般の眼鏡やサングラスは走ったり、跳んだりするとずれやすい。だがスポーツ用は、レンズから耳にかかる部分までの全体を一体化。顔に密着するよう工夫されている。レンズ部分が曲がったカーブ型も登場し、フィット感が増す。久利さんは「野球選手がヘッドスライディングをしても大丈夫です」と太鼓判を押す。素材に強化プラスチックや特殊金属を取り入れて軽量化にも成功。30グラム以下のものまである。

神戸の眼鏡マイスター「スター着用で抵抗薄く」

 サングラスは目の色素が薄く、光に敏感な欧州の市民は古くから愛用していたが、日本人には「怖い」「感じが悪い」とネガティブな印象があった。久利さんは「スター選手の着用で抵抗感がなくなったと思う。日差しの強い夏にはお薦め」と普段使いを推奨する。

 久利さんはマイスター大学堂の3代目。ドイツに留学し、05年にアウゲン・オプディカー・マイスター(ドイツ国家公認眼鏡士)を取得した。日本人で数人しか所持していない貴重な資格。本場で学んだ技術を生かし、顧客の要望に応えるセミオーダーも受ける。

 専門機器で目付近の顔のデータを測り、理想の組み合わせを提案。作家の俵万智さん、将棋棋士の谷川浩司さんの眼鏡も手がけた。「棋士は盤上近くで局面を見る人と、少し離れて俯瞰(ふかん)する人がいる。その人がどの距離、角度で対象を見たいのか。十分に聞いた上で最適のものを考えている」

© 株式会社神戸新聞社