大手タイヤメーカーの女性設計スタッフ、実は世界レベルの元トップライダー 強みはレーサーとの“共通言語”

バイク用タイヤの設計を担当する笠井杏樹さん=神戸市中央区筒井町

 男女の区別なく戦うオートバイのロードレースでトップクラスの活躍を続けた女性ライダー笠井杏樹さん(24)が、神戸の大手タイヤメーカーでバイク用タイヤの設計に携わっている。普通二輪と大型二輪の免許保有者のうち女性は3割に満たない。「女性ライダーの姿を見て、町乗りなどバイクに乗る女性が増えれば」との思いで仕事に取り組む。

 笠井さんは徳島県出身。技術者としてロードレースに携わっていた父に連れられ、幼い頃から全国のサーキットでレースを観戦していた。祖父もバイク店を経営。バイクは身近だった。

 「性別に関係なく200キロの速度で競い合う迫力と、重心移動など四輪よりもライダーの動きが反映されることが魅力」と、ロードレースの醍醐味を語る。

 レーサーを目指したのは高専の3年、18歳の時。子ども向けバイク「ポケバイ」で幼少期から経験を積む選手が多い中、遅いスタートだった。父から贈られた競技用ミニバイクに初めて乗った時は、クラッチ操作を誤り、前輪が大きく浮いて後ろに倒れたという。

 鈴鹿サーキット(三重県)を拠点にトップクラスの人材を育成するスクールに入ることができ、小中学生に混ざって練習。元世界チャンピオンなどの指導を受け、地方戦で経験を積み、持ち前の運動能力の高さもあって急成長した。

 2019年、鈴鹿4時間耐久ロードレースに出場。女性ペアで史上初の優勝を果たし、周囲を驚かせた。20年には国内最高峰の「全日本ロードレース選手権JP250」に初参戦。排気量200~300ccの中型バイクで、全国6カ所のサーキットを巡るレースを戦い抜き、ナショナル(国内)でシリーズランキング2位に。翌21年には、国際ライセンスを得て、インター(国際)で5位に入った。

 その後、体力面や経済的な理由から、就職することを決める。「先頭集団に入っていて、優勝の可能性も見えていただけにすごく悔しい」との思いもあったが、JP250クラスで使われるタイヤを製造する住友ゴム工業(神戸市中央区)を選んで内定を得た。

 22年に入社。以来、オフロードレース用タイヤの設計に携わってきた。ロードレースとは違いも多いが、試作品のタイヤで走ったライダーの感想を「翻訳」できることが強み。「『キュッと滑る』など擬音語や身ぶり手ぶりが、タイヤのグリップ状態を指しているのかどうかなどを、設計チームに伝えられる」と話す。

 日本モーターサイクルスポーツ協会によると、ロードレースのライセンス所有者5185人のうち、女性は158人でわずか3%(22年度)。本格的にバイクに関わる女性はまだまだ少ない。笠井さんは、「プロの道に進まなかった分、ライダーを支える仕事を通してモータースポーツを盛り上げたい」と意気込んでいる。(石川 翠)

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