なぜ惨劇繰り返した? 明石とソウル・梨泰院、混雑の危険性「事前に指摘されていた」 歩道橋事故22年

雑踏事故の再発を防ぐためのポイントを語る北後明彦・神戸大名誉教授=明石市内

 11人が死亡した明石歩道橋事故から21日で22年となる。遺族らは類似事故を防ごうと活動を続けているが、昨秋、ハロウィーンを前にした韓国ソウルの梨泰院(イテウォン)で159人が死亡する雑踏事故が起きた。なぜ惨事は繰り返されるのか。明石市在住の北後(ほくご)明彦・神戸大名誉教授(避難行動学)は「いずれの事故も発生の数カ月以上前に危険性が指摘されていた。防ぐためには行政機関などの情報共有が重要」と呼びかける。(長尾亮太)

 花火大会開催時に起こった明石歩道橋事故では、発生前年の大みそかに同じ大蔵海岸(明石市大蔵海岸通)であったカウントダウンイベントが大混雑した。北後名誉教授らによると、イベント終了後の歩道橋上には来場者らの脱げた靴などが散らばり、危険性を感じる警備関係者もいたという。

 ソウルの事故でも、2017年のハロウィーンイベント開催時には、会場の最寄り駅に地下鉄を停車させない▽一方通行で誘導する▽4千人以上の警察官を動員する-など、現場の危険性を認識した行政対応が取られていた。しかし新型コロナウイルス禍による中断を経た昨年は引き継がれなかったという。

 明石の花火大会には主催者がいて、ソウルのハロウィーンにはいないなど違いはあるものの、北後名誉教授は「いずれも警察や自治体などが事故を防ぐため、あらかじめ危険性と向き合う姿勢が欠かせない」と強調する。

 逃げ場の少ない囲まれた空間での開催を検討する場合は、事故を防ぐため「来場者数予想」「会場の使われ方」「会場へのアクセス」の3点を吟味することで、会場としての適性を判断できるという。必ずしも想定通りにいくとは限らないが、「不測の事態へ円滑に対応するためにも、事前に綿密な計画を立てるべきだ」と述べた。

 さらに自然災害時も雑踏事故は多く、100年前の関東大震災でも避難者による事故が起きたという。発生が予想される南海トラフ地震などでも「避難者による混雑に備える必要がある」と提言した。

【明石歩道橋事故】明石市民夏まつり花火大会が開かれた2001年7月21日夜、JR朝霧駅と大蔵海岸を結ぶ歩道橋で起きた群衆雪崩で子どもら11人が死亡、247人が負傷した。兵庫県警は業務上過失致死傷容疑で、明石署、警備会社、明石市の当時の担当者ら計12人を書類送検。同署元地域官と警備会社の元責任者は実刑が確定した。10年の強制起訴に始まった同署副署長(当時)の責任を問う裁判は、時効成立により打ち切る「免訴」となった。民事訴訟では遺族側の勝訴判決が確定した。

【韓国・梨泰院雑踏事故】2022年10月29日夜、ソウルの繁華街・梨泰院で群衆が同時多発的に倒れ、159人が圧死するなどした。日本人2人も犠牲になった。ハロウィーンを前にした週末、幅約3メートルの細い坂道に多くの人が詰めかけて発生。「主催者不在」の現場における雑踏警備や責任の所在が問われている。

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