神戸8人死傷火災から半年、集合住宅の解体進む 困窮者の頼みの綱「第2ひろみ荘」の実態浮かび上がる

火災で高齢者ら8人が死傷した「第2ひろみ荘」。建物は取り壊され、壁や鉄線がむき出しとなっていた=18日、神戸市兵庫区湊町1

 神戸市兵庫区で今年1月、未明の出火で4人が亡くなり、4人が負傷した集合住宅「第2ひろみ荘」の火災は、22日で発生から半年となる。築60年となる建物は、生活が困窮した路上生活者らを受け入れてきたが、解体工事が進む。関係者の話からは、社会で孤立した人たちが安心し、最後のよりどころとした住まいの存在が浮かび上がる。(千葉翔大、竜門和諒)

■ほとんどが3畳一間

 第2ひろみ荘(同市兵庫区湊町1)は3階建てで、1963(昭和38)年の築造。計31室に単身者ばかり30人が住み、ほとんどが3畳一間だった。火元となった1階に住む高齢の4人が亡くなった。うち2人の遺骨は、引き取り手がなく、神戸市内の墓園で保管されているという。また、火災で救急搬送された別の男性(60)は2日後、心筋梗塞で亡くなったという。

 管理人の男性(53)によると、被害を免れた3階部分には火災の後、一時的に10人が戻ったが、建物の取り壊しが決まり、入居者25人が新たな住まいを探すことになった。

 関係者によると、約8割の20人前後はこの管理人が近くで運営する別の集合住宅に移った。介護施設に入居した人もいるが、数人の行き先は分からないという。

■「普通の不動産屋は受けない人が頼ってくる」

 住んでいたのは、アルバイトで生計を立てたり、生活保護を受給したりする中高年だった。寝たきりで食事や排せつ、服用する薬の手配など日常生活の多くを管理人に頼る人もいた。

 管理人の男性は「普通の不動産屋は受けない人が、うちを頼ってくる」と話す。保証人を必要としない住宅は、生活が立ちゆかない人たちの頼みの綱だった。

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 生活に困窮した人たちに第2ひろみ荘を紹介してきた団体に、NPO法人「神戸の冬を支える会」(神戸市中央区)がある。会は、路上生活者らの住宅を確保する支援業務にも取り組み、青木茂幸事務局長(67)によると、夜回りや炊き出しで出会ったり、行政から引き継ぎを受けたりした人たちの相談を受けてきた。

 部屋の賃貸契約では、初期費用▽携帯電話▽身分証明書▽身元保証人-が求められるが、全てをそろえられる人はほとんどいない。行政の支援としては一時的な金銭援助などはあるものの、賃貸契約に直接関われない。そこで、同会が入居先との橋渡し役を務めた。

 初期費用を用意できる人は少なく、提案できるのは福祉施設や簡易宿泊所、家賃が安い集合住宅だった。

 福祉施設は設備が整っているが、「自由で気楽な生活がしたい」として後ろ向きな人が多い。食事も、生活リズムも、お金の使い方も、誰にも縛られたくないというわずかな望みをかなえられるのが、第2ひろみ荘のような物件だった。

 家賃は、光熱費込みで4万円前後。火災後の神戸市の調査で、建物は防火用の間仕切りの厚みが足りないなど、防火面での不備が分かった。ただ、青木事務局長は「管理人は、入居者の通院にも付き合っていた。大変だったはずだが、これからもあってもらわないと困る存在」と指摘した。

【神戸・兵庫区の集合住宅火災】1月22日未明、神戸市兵庫区湊町1の第2ひろみ荘から出火。3階建て延べ約290平方メートルのうち1、2階の計26平方メートルを焼き、1階に住む77~86歳の男性4人が急性一酸化炭素中毒で死亡した。兵庫県警によると、延長コードの劣化による出火とみられる。神戸市による緊急調査の結果、市内の寄宿舎や共同住宅計82棟のうち、19棟で建築基準法違反が確認された。

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