「一人一人の顔が見えるような展示」を要望 原爆資料館改善へ長崎の証言の会

長崎市の担当者(左側)と意見を交わす大矢代表委員(右から2人目)ら=長崎原爆資料館

 被爆証言の掘り起こしや記録を続ける市民団体「長崎の証言の会」が、長崎市の長崎原爆資料館(平野町)の展示内容について課題や改善案を取りまとめた。原爆の威力を表すモノの展示に偏らず、被爆者らの精神的・社会的な苦しみも表現した「一人一人の顔が見えるような展示」などを求めている。21日、要望書として市に提出した。
 市は2025年の被爆80年に合わせて展示内容を更新する予定。有識者らでつくる同館運営審議会などの意見を踏まえ、本年度中に基本計画を策定する。
 要望書は今春以降、証言の会の会員が意見を出し合い作成した。見せ方については、原爆の熱線や爆風などによる「物理的破壊」を示す実物展示だけでなく、生き残った被爆者が家族や知人の死、戦後の差別などに苦しみ続けた側面を伝えることが「戦争や原爆を知らない世代に実感を持たせる上で重要」と指摘。被爆者運動の歩みや核兵器廃絶を目指す市民運動、「被爆体験者」や内部被ばくに関する展示充実も求めた。
 所蔵資料の多くが公開されず「死蔵状態」になっているとして、一般市民が資料を閲覧しやすい仕組みづくりや、資料公開に向けた学芸員の増員なども提言。隣接する国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館や市平和会館との連動も不十分だとし、平和会館内に修学旅行生らを対象にした平和教育拠点を新たに設けることなども提案した。
 展示更新に向け、一般市民が参加できる公聴会やパブリックコメント(意見公募)の実施も求めている。
 21日は証言の会の大矢正人代表委員(76)ら4人が原爆資料館を訪れ、井上琢治館長に要望書を提出。大矢代表委員は被爆者らの高齢化を踏まえ、今回の展示更新は「太平洋戦争体験者の考えを反映できる最後の機会になる可能性がある」とした上で「体験者の意見も踏まえ、被爆100年に向けた展示の方向性も今のうちに出してほしい」と語った。

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