利用低迷や燃油高騰…苦境の運転代行業 国や自治体の公的支援求める声

苦境にあえぐ運転代行業。最低利用料金の設定などの制度改善や公的支援を求めている=平戸市田平町

 「店でお酒を飲む人がいなければ利用者はいない」。島原市内で「代行運転トライ」を営む吉田國廣さん(74)は諦めたようにつぶやく-。新型コロナウイルス流行による利用低迷や燃油高騰、価格競争といった苦境にあえぐ運転代行業。現場からは国や自治体の支援、制度改善を求める声が上がる。
 コロナ禍前、トライの従業員は6人いたが、現在は吉田さんが妻と2人で街を回る。収入がない月もあった。ガソリン代が高騰し、車両を動かさなくても保険代や維持費など固定費は発生する。貯蓄と年金でやりくりして、しのいでいる。
 吉田さんは島原半島3市の業者でつくる組織の代表も務めている。「ミナト代行センター」(島原市)の林田新吾さん(48)は「減収で赤字だった」と実情を語るが、加盟する約30業者は苦しみながらも経営努力で1業者もつぶれなかった。吉田さんは「代行が減ると飲酒運転が増えかねない。それは避けたい」との使命感を持ってハンドルを握っている。
 全国には約8千の運転代行業者が存在する。ただ、総務省の日本標準産業分類では、「他に分類されないその他生活関連サービス業」に位置付けられている。このため飲食業などと違って、新型コロナ対策の特別融資を受けられない。交付金などの支援は自治体によって低額だったり、対象外だったりする。
 こうした状況を改善しようと昨年、全国組織の一般社団法人、新日本運転代行連盟(NJDU)が誕生した。その理事で「運転代行黄門ちゃま」(平戸市)の代表、新立貴博さん(41)は「他人の生命財産を直接的に扱うので第2種運転免許が必要。保険加入も義務付けられているのに『その他』に分類されるのはおかしい」。NJDUはより充実した公的支援を得るためにも、独立分類とするよう国に要望している。
 「桃太郎運転代行」(佐世保市)を営む前田芳仁さん(63)は、地域によって初乗り料金が異なる点を問題視する。相場よりも低額に設定する事業者もあり、激しい価格競争を招いている。地域の実情に応じた最低利用料金の設定を求める声は強く、他県では条例化の動きもある。
 「特に地方では代行がないと飲食店にお客さんが来ない。代行があるからこそ経済が回っている」。新立さんはこう自負し、今後は介護福祉の分野にも貢献できると考えている。

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