社説:対中包囲網 分断避けるかじ取りを

 日本にとって難しいかじ取りといえよう。

 経済産業省は外為法の省令を改め、先端半導体の製造装置など23品目の輸出規制に乗り出した。

 覇権主義的な動きを強める中国の軍事利用を防ぐ狙いがある。ハイテク分野でも激化する米中競争を背景に、同盟国の米側の求めで規制強化の足並みをそろえた形だ。

 半導体を戦略物資とする輸出規制は、日本の安全保障を左右する半面、深くつながる中国の市場やサプライチェーン(供給網)に混乱を招く恐れも伴う。

 安保上のリスクと措置の根拠、線引きを明示しつつ、経済活動の制約を極小化する賢さとメリハリある対応が求められよう。

 規制対象は、日本が高い技術力を持つ半導体関連の製造装置や部品。基板の洗浄や回路転写、検査など、有力メーカーのある京都にも一定程度の影響がありそうだ。

 23品目は、米国や韓国など友好42カ国・地域向けは輸出手続きが簡素化できる一方、他の中国などへの輸出は、これまで不要だった経産相の許可が毎回必要になる。

 米主導の対中包囲網を強めるものだ。米政府は昨年10月、ウクライナ危機でも重要性が再認識された先端技術を使わせないとして、先端半導体関連の輸出規制強化を発表した。同様の措置を求められ、日本に続きオランダも9月から規制強化を予定している。

 中国は反発し、半導体材料となる希少金属の輸出規制を8月から行う。先端分野で国産化の「自立自強」は道半ばだが、対抗策の応酬で影響が広がる懸念もある。

 日本製装置の中国向け販売額は2022年度に9917億円と全体の約25%を占め、国・地域別で最大市場だ。経産省も、禁輸ではなく先端半導体に絞った措置のため「影響は限定的」とし、決定的対立は避けたい思いがにじむ。

 米国は安保、経済で対中包囲を図りつつ、先月から国務長官、財務長官が相次ぎ訪中し、対話継続によるリスク低減に動いている。

 だが日本は、4月に林芳正外相が訪中した後が続かずにいる。今月、インドネシアで開かれた外交トップ会談で、中国側は東京電力福島第1原発の処理水放出に強く反対する一方、日中韓の高官級協議開催も打診してきたという。

 日米韓連携にくさびを打つ狙いとはいえ、尖閣諸島や邦人拘束などを巡り山積する懸案の打開には交渉を重ねるほかない。個々の対立点の先鋭化や分断を招かない、安定的関係づくりが問われよう。

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