ジブチで再会し商品生まれる 長崎出身の大田さんと現地の女性 洋服作り日本で販売

カルトンさんが作った商品を手に笑顔を見せる大田さん=長崎市、浜屋百貨店

 2022年2月、アフリカ東部の小国、ジブチ。国際協力機構(JICA)の専門家としてジブチ沿岸警備隊の支援業務に従事する大田孝さん(54)=長崎市出身=は、地元スーパーの駐車場に車を止めた。そばにテントが並んでいて、中をのぞくと、外国人向けの土産が置いてある。大田さんはそこで見覚えがある赤い刺しゅうを見つけた。
 新型コロナウイルス禍で、店番をしていた女性の口元はマスクに覆われ、頭にはスカーフが巻いてある。見えるのは目元だけだ。
 「コンニチワ」
 先に口を開いたのは彼女だった。どこかで聞いたことのある声。その声と赤い刺しゅうを頼りに大田さんは記憶をたどった。
 「カルトンか?」
 彼女は目を大きくし、少し間を置いて返した。
 「オオタ?」
 互いにマスクを外して顔を見合わせ、また驚いた。彼女の名前はマハムッド・カルトンさん(35)。18年ぶりの再会だった。
            
 19年まで本県で小学校教諭を務めた大田さん。その傍ら、05年から2年間、JICAの青年海外協力隊員として同国に派遣され、日本語や音楽などを教えた。帰国する半年ほど前、洋裁を指導する同僚隊員から「絵の描き方を教えてあげてほしい」と紹介されたのが当時17歳のカルトンさん。刺しゅうは得意だけど絵が苦手だった。カルトンさんは半年間だけの教え子だったが、帰国時、赤い刺しゅうの入った小物をプレゼントしてくれた。
 大田さんはその後、アフリカのガボンに派遣されるなど、国際貢献と教諭の二足のわらじを履く生活。教諭退職後の20年からは、高校の同級生で洋裁指導をしていた末永志穂子さん(54)=長崎市=と協力して、アフリカの自立支援団体などが作る衣料・雑貨を市内で販売する企画を始めた。
 

ジブチで日本人向けの製品を作るカルトンさん(大田さん提供)

     
 再会したカルトンさんは、現地で女性の就労支援をする団体に所属。洋裁を指導する立場になっていた。大田さんは彼女と連携し、現地発の「日本人向け洋服」の製作を考案。末永さんにも助言をもらいながら現地で試作を重ね、アフリカの布で日本人向けのカラフルなスカートとハーフパンツを完成させた。
 今月下旬、浜屋百貨店(長崎市浜町)の特設売り場にオリジナルブランド「カルトン ジブチ」の商品として並んだ。売り上げの一部を使い、現地では手に入らない高性能のミシンを購入する予定だという。それで生産性と品質を上げ、より売れる商品に。そんな好循環を見据える。
 アフリカの地で偶然出会い、商品が生まれ、それが遠く離れた長崎の老舗百貨店に並ぶ。「私たちの活動で(同国の)貧困をなくすことはできない。でも、日本で販売することは彼女たちの自信になる。『もっと頑張ろう』って目標を見つけてくれればいい」。そう話す大田さんは「最近、うれしいことがあって」と教えてくれた。
 「カルトンが初めて(技術を学ぶため)日本に行きたいって言ったんですよ」

 「カルトン ジブチ」商品は28日まで浜屋4階で展示販売。午前10時~午後7時半(28日は午後3時まで)。末永さんが代表の「シエル ナガサキ」(長崎市元船町)でも購入可。

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