社説:概算要求基準 見えぬ「平時」財政の道

 財政規律のたがが外れたままではないか。

 政府は、2024年度予算を要求する際のルールとなる概算要求基準を閣議了解した。岸田文雄首相は「(新型コロナウイルス禍から)経済を正常化させる中で、歳出構造を平時に戻していく」と強調した。

 だが、過去最大だった23年度の基準をおおむね踏襲し、必要額を示さずに例外扱いする「事項要求」も継続する。全体的な歳出の上限金額も設けない「青天井」のままである。

 そのため、国債の利払いや償還費を含めた一般会計の要求総額は、10年連続で100兆円を超える見通しだ。

 「非常時」として膨らませ続けた財政をどうやってたたむのか。これではまったく見えず、基準と呼ぶには値しない。

 予算編成過程で中身や金額を詰める事項要求は、年々拡大傾向にある。物価高や少子化への対策を口実に、非効率な事業も混じりやすい。過度な歳出増を防ぐ概算要求基準を形骸化させている。

 岸田政権が掲げる「新しい資本主義」関連の特別枠「重要政策推進枠」は、前年並みの4兆2千億円規模とした。

 各省庁の政策判断で予算を増減できる「裁量的経費」は23年度予算から1割削減を求める一方、削減額の3倍を特別枠で要求できる仕組みでは抑制にはならない。

 特別枠は、賃上げの実現や官民連携による投資の拡大、防衛力の強化などが含まれる。21年度を除き毎年設けられてきたが、重点政策は次々と変わってきた。長期的視点が抜け落ちてはいないか。内容の精査が不可欠だろう。

 年金や医療などの社会保障費は、高齢化などに伴う自然増を5200億円とした。

 岸田氏は先の国会で、防衛費増額や少子化対策の財源確保に向け、社会保障費を念頭に「歳出改革により捻出する」と繰り返し説明していた。だが、その工夫や目標は何ら示されていない。無責任な掛け声倒れではないか。

 国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の中長期試算では、高い経済成長率を実現すると仮定しても、25年度は1兆3千億円の赤字になる見通しという。黒字化の政府目標は、もはや絵に描いた餅に等しい。

 岸田政権は早急に財政健全化の道筋を練り直すべきだ。少子化対策を掲げながら、先進国最悪の累積債務を放置し、次世代につけを回すことは許されない。

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