心臓マッサージ習った当日に実践 川に浮かぶ女性見え一目散 伊丹の警備員「真面目に受けてよかった」

救助現場の天王寺川で当時の様子を話す浜崎宗成さん=伊丹市池尻4

 川で溺れていた女性を救助したとして、兵庫県警伊丹署は警備員の浜崎宗成さん(67)=同県伊丹市=に県の善行賞「のじぎく賞」を伝達した。浜崎さんは会社で救護について学ぶ講義を受けた直後に現場に居合わせ、習ったばかりの心臓マッサージで女性の命を救った。(池田大介)

 今年5月23日、午前中に会社で心臓マッサージなどの救護に関する講義を受けた後、伊丹市内の商業施設で昼食を取った。その後、施設近くの天王寺川沿いにあるバス停で、自宅方面行きのバスを待っていた。

 ふと左側に目をやると、20メートルほど先で女性が携帯電話に向かって何かを話しており、そちらへ別の女性が小走りで向かっていった。「何かあったのかもしれない」。浜崎さんが女性らの元に駆けつけると、堤防の下の川に花柄のブラウスを着た女性がうつぶせで浮いているのが見えた。「これはあかん」。リュックを置いて、一目散に堤防を下って川に入った。

 腰まで水に漬かりながら女性を持ち上げようとするも、服に水がしみこんで重い。上に引き上げることはできないと判断し、服をつかんで持ち上げ、堤防にあおむけ状態でもたれかけさせた。

 女性の顔を覆っていたマスクを外すと、唇は紫に変色し、舌は力なくはみ出ていた。「大丈夫ですか」。大声で呼びかけながら頬をたたいても全く反応がない。

 「心臓マッサージしかない」。浜崎さんは午前中に人形で実践した心臓マッサージの方法を必死に思い出した。みぞおち付近に重ねた手のひらを当てて強く押す。無我夢中で繰り返しているうち、女性の口から水が出て、「うっ」とうめいた。

 引き続き心臓マッサージをしていると、横から「大丈夫ですか」と声が聞こえ、振り向くと救急隊員がいた。隊員の姿に安心した浜崎さんは体の力が抜け、肩まで川に漬かってしまった。

 女性はその後、隊員に引き上げられて病院に搬送された。数日後、女性から電話があった。足を滑らせ、川に落ちてしまったという。「本当にありがとうございました。命の恩人です」。はきはきとした声だった。

 浜崎さんは「習ったことを早速生かせられた。やるべきことをしただけだが、講習を真面目に受けておいてよかった」と笑顔を見せた。

© 株式会社神戸新聞社