きっかけは客1人の電話から、試作重ねて米粉100%パン開発 三木のパン店、アレルギー対応の商品にも

三木市産の山田錦を使った米粉100%のパン=三木市芝町

 ある土曜日の昼前、松山製パン(兵庫県三木市芝町)に1本の電話が入った。客入りがピークを迎えた慌ただしい店内で、スタッフが応対し続けること約30分。受話器を置いたスタッフは少し困ったような表情を浮かべた。「米粉100%のパンはありますか、ですって」(小西隆久)

 電話の主は、三木市内の女性(69)。2年半前、太ももに肉腫を発症、切除手術を受けた。現在もリハビリを続けているが、再発防止のために医師から小麦粉と白砂糖を取るのを控えるように勧められたという。

 「でも、朝は毎日パンが食べたい」。小麦を使わないグルテンフリーで、砂糖が入っていないパンをあちこちで探し回った。同社に「米粉100%のフィナンシェがある」と知人から聞き、電話をかけたという。

 その日の午後、報告を受けた同社の松山敏郎社長は、女性に電話をかけながらアレルギー対策の商品開発に着手できないままだったことを思い出した。気が付くと「分かりました。一度、挑戦させてください」と告げ、電話を切っていた。

 同社にも山田錦を使ったパンはあるが、小麦も使用しており、米粉100%のパンを作ったことはない。インターネットで調べて大阪市内の百貨店を3軒回ったが、どこにも販売していなかった。

 松山社長は、試作を始めてすぐにその理由を知る。「米粉だけではパンが思うように膨らまないんです」。最初にできたパンは「まるでゴムのような食感で、とてもじゃないけどパンとは言えなかった」(同社の松山依織専務)ほど。難しい課題だったが、ひるまず挑戦を続けた。

 米粉は三木市産の山田錦にこだわった。白砂糖の代わりに蜂蜜も試したが、甘みが弱すぎてだめ。たどり着いたのが、白砂糖よりもコクや風味の強いきび糖だった。

 たねの発酵時間や焼く時間をいろいろ試し、3日間で10種類ほど試作。生地を紙製のカップに入れることで膨らみやすくし、バターの代わりに米油を使った。少し冷まして提供すると、もちのような食感がパンに近くなることも分かった。

 電話から4日後、米粉だけのパン「三木市山田錦100%のグルテンフリーのパン」が完成した。小麦とバターのアレルギー対策に加え、ビーガン(完全菜食主義者)にも対応できる。

 女性に知らせると、翌日に同社を訪れ「本当にありがとう」と10個ほどまとめ買いしていった。味わった女性は「とてもおいしい。これなら買い続けたい」と満足そうだったという。

 「今回、注文してきたのは1人だが、その後ろにはアレルギーなどでパンが食べられない大勢の人がいると思った」と松山社長。女性からは「米粉100%の食パンも」との要望もあったそうだが、松山社長は「それはちょっと…」と苦笑していた。

 1個180円(税込み)。在庫状況を電話で確認する方が確実という。同社TEL0794.82.0757

© 株式会社神戸新聞社