女性アスリートの生理、相談も指導もためらい 激しい練習は無月経リスク、専門家「知らない選手や指導者多い」

「ふくいジュニアアスリートアカデミー」の一環で、男女の発育の違いや生理の対処法などを説明した講座。男子や父親も理解を深めた=福井県福井市の県営体育館会議室

 女性アスリートにとって、生理(月経)との付き合い方は競技生活を左右する重要な課題だ。生理痛や周期の不順、体調不良などさまざまな症状があり、個人差も大きい。福井県スポーツ医・科学委員会が県内女性選手を対象にした2015年度の調査では、回答した481人のうち約3割が生理の不安を抱えていたが、実際に婦人科を受診したのは14人だけだった。

 中京大スポーツ科学部の來田享子(らいた・きょうこ)教授は「学校、家庭、スポーツ現場のいずれも生理を正しく教える機会が乏しい」という。生理について口にすることもはばかられがちで、適切な対応がされていないことが多い。指導者は科学的知識を学ばないまま練習に当たっていると指摘する。

 福井工業大学スポーツ健康科学科の内藤景(ひかり)准教授や女子学生らのグループが20年度、部活動が盛んな県内高校の女子部員165人に行った調査がある。生理に関して指導者に悩みを相談する割合は1%にも満たなかった。ある女子選手は「男性の監督に言えるほどメンタルが強いなら苦労しない」とし、県内の40代男性指導者は「生理のことを聞いてもいいのか…。セクハラが気になり、当たらず障らずになる」と吐露する。

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 激しい練習を続ける女性選手は無月経、骨粗しょう症、エネルギー不足のリスクがある。こうした健康障害は「女性アスリートの三主徴」と呼ばれる。女性選手の健康問題を研究する現役陸上選手の碇(小尾)麻菜・福井工業大学准教授は「三主徴を知らない女性選手や指導者が多すぎる」と警鐘を鳴らす。

 生理による女性ホルモンの増減で体重変動が起こりやすく、短絡的に「競技生活にマイナス」と捉える指導者や選手は少なからず存在する。中には「練習していれば生理は来ないもの」という選手もいるという。体調不良に陥ると、回復に長い時間がかかり、選手生命を失いかねない。碇准教授は「兆候が見えた早い段階で、指導者が気付くことが大事」と話す。

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 こうした状況に危機感を持ったのが福井県済生会病院の細川久美子産婦人科部長だ。福井国体間近の18年3月、県内産婦人科医有志で「県女性アスリート・ルナコントロールプロジェクト」を立ち上げ、希望した県内競技団体に出前講座を行った。ローイング(旧ボート)などがいち早く受講した一方、全く動きがない団体も少なくなかった。

 国体後、活動が下火になるのを懸念した細川部長は、本年度から県と県スポーツ協会の選手育成事業「ふくいジュニアアスリートアカデミー」で小学6年生男女に女性や男性の体の発達について指導を始めた。「早い年齢から教える意義は大きい。すそ野が広がれば、女の子が『スポーツをやって良かった』と思える環境整備ができるはず」と力を込める。

⇒育児と競技の両立、女性選手狙った盗撮…連載「ふくいジェンダーとスポーツ」をまとめて読む

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 スポーツ界で女性アスリートの活躍が脚光を浴びる一方、取り巻く環境に多くの課題は残る。福井県内を中心にジェンダーとスポーツに関する現状を探る。

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