世紀の移動革命、「空飛ぶクルマ」が変える未来社会 神戸・三宮への通勤、六甲山を越えひとっ飛び

SkyDriveが描く「空飛ぶクルマのある未来」(ⓒSony PCL,Sky Drive)

 乗用車を走らせるように大空をドライブ-。SFの世界でしかなかった「空飛ぶクルマ」がついに実現段階に来ている。世界各地で実用化に向けた機体開発が大詰めに入り、「100年に1度の移動革命」を巡って多彩な分野で企業間競争が激化している。国が商用飛行を目指す2025年大阪・関西万博まで2年を切った今、私たちの暮らしがどう変わるかを想像した。(谷川直生)

 

■コンビニ駐車場から空の通り道へ

 20XX年7月X日朝、三田市のニュータウンを走る車両が、コンビニの駐車場に入った。一角のスペースに止まると、小さな複数のプロペラが回り始める。フルン…フルン…。車体は垂直に浮き上がり、空の通り道「コリドー」に吸い込まれる。そのまま六甲山を抜け、神戸・三宮へ。

 これは機体メーカーが想定する「完成形」を基にした世界だ。

 空飛ぶクルマはイメージするならば、人が搭乗できるドローンに近い。環境に優しく騒音の少ない「電動」、狭い場所でも発着できる「垂直離着陸」、低コストの「自動操縦」の三つを主な特徴としている。

 国土交通省の官民協議会などの計画では、25年には遊覧などの商用飛行が始まり、35年ごろに機体が量産化される。その頃にはコリドーや管制システムも整備され、自家用やカーシェアとして使われるようになる。

 「都市部では、身近なコンビニやビルの屋上が発着場となり得る。道路も走れて空も飛べるクルマの開発も目指す」。万博での運航を決めた機体開発のベンチャー「スカイドライブ」(愛知県)の担当者が語る。

 例えば、三田市-神戸市中央区間ならば、双方を遮る六甲山という「通勤の壁」がなくなる。電車で1時間弱、車では曲がりくねった山道を抜けるが、空なら約20キロの直線距離をひとっ飛び。尼崎市から通勤するよりも近いくらいだ。

 

■姫路城、ぼたん鍋…兵庫周遊を2時間で

 X月X日午前、神戸空港に着いた国際旅客機から中国人家族が降り立ち、そのまま空港島にある空飛ぶクルマの発着ポートで搭乗手続きを済ませる。旅のプランは名付けて「24時間、兵庫まるごと巡り」。

 日本政策投資銀行関西支店(大阪市)は「広いエリアに資源が散らばる兵庫県では、観光のあり方が激変する」と期待する。

 同支店がまとめたリポートによると、神戸-姫路-丹波篠山-朝来-豊岡-神戸を自動車で移動した場合、総移動距離は約400キロにも上り、運転時間は6時間40分かかる計算となる。しかし、空飛ぶクルマなら、移動距離は約300キロに短縮され、飛行時間は2時間しかかからない。

 例えば、午前10時に出発後、姫路城(姫路市)を空から眺め、丹波篠山市に降りてぼたん鍋を味わい、竹田城跡(朝来市)を見下ろし、城崎温泉(豊岡市)で疲れを癒やす。帰路は六甲山上空で神戸の夜景を望み、淡路島のホテルで1泊し、翌午前10時に神戸空港島に戻る-という楽しみ方もできる。

 現実に神戸市は、神戸空港に国際定期便が就航する2030年ごろを見据え、空港島での発着ポート設置を視野に入れる。今年秋にも有識者を交えてビジョン案をまとめる。

 これからインフラや法整備、ビジネスがさらに拡大する。市場調査会社の「矢野経済研究所」(東京)は、関連産業の世界市場規模が25年に608億円に達し、50年には180兆円を超えると予測している。

 鉄道、車、飛行機に続く、新たな移動革命が始まろうとしている。

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