軌道またいで登下校、保護者ら不安 LRT最重要課題は安全対策 発進LRT⑥

交通指導員に誘導されて軌道敷を横断する児童たち=7月18日、午前7時40分、宇都宮市下平出町

 道路と地続きの軌道の上を児童が次々横断していく。

 7月中旬朝、宇都宮市下平出町。次世代型路面電車(LRT)の軌道のすぐ南側に位置する平石中央小では、軌道をまたいで登下校する児童が少なくない。交通指導員らが見守るが、保護者や近隣住民は「何かに夢中になって事故に遭わないか」と不安を抱く。

 鉄道と異なり、LRTには歩行者や車が横断する軌道敷に遮断機がない。信号機に従うのがルールだが、ない場所もある。市は計16カ所の横断場所全てに、LRT車両の接近を音や文字で知らせる「接近表示器」を設けた。

 同校周辺の軌道は住宅地を通る。接近表示器があっても、民家の塀などで見通しが悪く、把握しづらい場所もある。近所の70代農業男性は「いつか事故が起きる」と危機感を口にする。

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 安全対策はLRTの最重要課題だ。だが、運行がひとたび始まれば「トラブルは起きる」と市の幹部でさえも懸念する。

 昨年11月に始まった試運転期間中、LRT車両と車が接触するなどの事故は起きていないが、横断歩道などに設けられた車の進入を防ぐ構造物との接触事故は既に数件発生した。

 2006年に開業したLRT先進地・富山市内では、交通事故は年間数件の発生で推移している。22年度は3件で、これまでに死亡事故は起きていない。

 LRT車両と並走する車が右折時などに操作を誤り、接触する事故が目立つという。同市は車の運転手らに対し、注意喚起のチラシ配布などを続けている。

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 宇都宮市も安全対策を強化している。学校周辺や住宅地で歩行者らの誤進入が危惧される場所には、軌道脇に高さ約1メートルの柵を設置した。一部道路の右折レーンの延伸など、交通渋滞対策にも取り組んでいる。

 県警監修の下、交通ルールを伝える動画を作成し、ホームページなどで公開も始めた。小中学生を対象とした交通安全教室も定期的に開催している。

 開業を約1カ月後に控えた24日、軌道脇のバリケードの撤去が始まった。これからは軌道と車道を遮るものがなくなり、以前よりも事故が起きる可能性は高くなる。それだけに、矢野公久(やのまさひさ)建設部長は強調する。「二重三重にも安全対策が必要だ。今から間に合うものはしっかりやる」。円滑な運行は安全の上にしか成り立たない。対策に終わりはない。

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