「そろそろ こういうのやめませんか…」富士登山ガイドから弾丸登山者へのメッセージ

「死のリスク」に自身をさらす登山者

先日、ツイッターに投稿者の呆れ顔が目に浮かぶような投稿がありました。

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「そろそろ こういうのやめませんか。。。天候が急変しても、山小屋に泊まったり入れてもらえるとは限りません。軽装は低体温症のリスクがあります。山頂は冬の気温です」

投稿には、山小屋の玄関口や周辺に座り込む弾丸登山者らの写真が数枚添えられています。足元はスニーカー、ジャージーやスエットという服装の彼らは5~6℃にまで下がった富士山の夜を背中を丸めて耐えています。

彼らは低体温症や落石など“命を落としかねないリスク”に自らをさらしながら、頂上でご来光を見るために、屋外で「時間調整」をしているのです。

ベテランガイドがつぶやく「呆れ果てた」

つぶやいたのは、富士登山をサポートする「富士宮口ガイド組合」の水本俊輔組合長(45)です。

「今回の投稿は増加し続ける弾丸登山者に対する、怒りを通り越して、呆れ果ててしまった気持ちと、それでもまだ残っている心配の気持ちからです。富士登山関係者はみな、わたしと同じような気持ちではないでしょうか。わたしたち登山ガイドに彼らを止める権限はありませんが、事故が起きないように、継続的に啓発したいという願いを込めました」

安直な計画、低いマナー意識=弾丸登山者

水本さんは、弾丸登山者の行動を次のように説明します。

「山小屋での宿泊代を浮かしたいというのが第1点。そして、コースタイム通りに夜通し登れば、ご来光を山頂で拝めるだろうという安直な考えがもとになっているのです」

しかし、現実は違うと指摘します。

「防寒具も持たずに軽装で登山し、疲れたらその場でビバーク(野宿)することは、天候変化が原因で起こる低体温症などの気象起因リスクや自分を守る屋根などがなく、落石を避けられないといった地形起因リスクが高く、とても危険な行為なんです」

天候悪化がひどくなり、山小屋が外に座り込む登山者を建物内に入れてくれたーというケースも皆無ではありませんが、本来、山小屋に弾丸登山者の「保護義務」はありません。さらに、水本さんは弾丸登山者のマナーの悪さを示す事例を紹介してくれました。

「過去には、山小屋所有の運搬用ブルドーザーの運転席や幌のなか、山小屋のトイレに入り込んで寒さをしのぐ登山者がいました。さらに、山小屋近くで金剛杖やゴミを燃やして暖を取る迷惑行為も発覚しています。富士山は国立公園特別保護地区内なので、たき火は犯罪といえます」

SNSが拡散する富士登山への誤ったイメージ

弾丸登山者はどこからこういった"悪習慣"を入手しているのでしょうか。水本さんは「SNS全盛の時代なので、軽装にもかかわらずたまたま無事に登頂できた人の投稿を見て、自分もできると安易に考えてしまう人もいるのでしょう。登山者数が多いため簡単な山と勘違いしているようです」と推測します。

国や県レベルで具体的な対策を

予約状況が予想を上回るペースだったことから大混雑の発生を危惧した静岡、山梨両県の山小屋関係者は山開きを前に、双方の自治体に対して登山者の制限など安全措置を講じるように要請しています。これに対して、行政は効果的な施策を実施できているのでしょうか。

「まだシーズン半ばですが、体感では、弾丸登山者の割合は減っているようです。しかし、効果的な対策が取られているとはいえません。問題を解決するためには『弾丸登山者を5合目までこさせない、登らせない』という対策が必要です。具体的には、国や県単位で行政がタクシーやバス会社と協力し、決められた時間以降は宿泊予約が確認できないとシャトルバスやタクシーは登山者を運ばないというルールを決めたらどうでしょうか」と提案します。

ピーク時期に向け悪化する登山事故リスク

弾丸登山者には、日本人の若者や在留外国人、訪日旅行者が目立つと話す水本さん。これからお盆に掛けて、弾丸登山者も増えると心配を募らせています。

「登山者が増えると渋滞も増えます。待つことを我慢できない人が登山道から外れて歩くと落石を誘発してしまい、事故につながります。事故が発生すると私たちガイドは搬送に加わるなど山岳救助機関の活動を補助しています」

つまり登山者が多ければ、落石など事故発生の可能性は高くなり、また、事故に巻き込まれる人の数も多くなるという悪循環の発生が危惧されているのです。

本当に登りたい人は富士山が呼んでくれる

「富士山は循環器系や呼吸器系への負荷が国内トップクラスの山です。独立峰なので登ればそれだけ低酸素、低気圧環境にさらされます」

富士登山が体へ及ぼす影響を解説する水本さんは、富士山を目指す前にやるべきことがあるといいます。

「近隣の山で構わないので登ってみましょう。そして、体のどの筋肉が疲労するかを把握してみましょう。事故のほとんどは下山中に起こります。登頂するだけで体力・気力を使い果たさないように。体調、天候が悪かったら『続きは次回』と下山を決断してください」と安全登山のポイントを紹介し、「一生に一回の富士山登山だから」と気負わないでと呼び掛けています。

「本当に登頂したいという気持ちを持つ人は、富士山がまた呼んでくれますよ」

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