福井駅へ降り立った観光客をどう案内…鍵を握るタクシー運転手 問われる「アテンドの力」

【グラフィックレコード】おもてなしの心
「観光客にとっては、タクシーの運転手の印象がそのまま福井の印象になる」と話す松尾さん=7月3日、福井県坂井市の東尋坊
小型ジェット機とハイヤーの乗り換えを行う実証実験の様子=2022年12月、福井県坂井市の福井空港(県提供)

 JR福井駅の改札で、観光客を穏やかな笑顔で出迎えた福井交通(福井市)のタクシー運転手松尾亮一さん(78)は、駅西口のロータリーをぐるりと回りながら、恐竜が闊歩する巨大壁面を指さした。「これが1億2千万年前の福井です」。つかみはOKだ。

 この日は大本山永平寺(永平寺町)、丸岡城(坂井市)、東尋坊(同)を巡る4時間コース。県観光連盟と県内のタクシー3社が連携した観光商品「越前・若狭周遊プラン」で、全32コースのうち最も人気が高い。

 県認定観光ガイド、おもてなしマイスターなど、数々の資格を持っている松尾さん。「観光客にとって、改札で対面したときのタクシー運転手の印象が、そのまま福井の印象になる。目と目が合ったときは今でも緊張する」と話す。

 永平寺の門前町で、土産物に悩んでいる観光客にはごま豆腐を紹介し「ごまをすりつぶし、くず湯をかけて、冷やし固めたものです。大豆は入っていません」と“プチ情報”を添える。

 車中では、眼鏡や漆器といった伝統産業、福井の気候風土など、相手の興味を探りながら話題を振る。田園風景を走るときは、コシヒカリ発祥の地であり、六条大麦の生産量日本一でもあることを紹介する。情報は図書館や新聞で仕入れる。

 「知っていることを全部話さないのがこつ。お客さんの時間を奪うことになるから」。松尾さん目当てのリピーターも多く、乗客が用意したチケットで、県立音楽堂でピアノコンサートを聴いたこともある。

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 2022年度の周遊プランの利用者は402人で、客層は50~70代が80%、居住地は首都圏(1都3県)が42%で最も多い。初めて福井に来た人は51%。県観光連盟の荒木敬司さん(56)は「初来福の人は、東尋坊や永平寺など定番の観光地を巡る。そこにうまく案内できるかが重要」と強調する。

 周遊プランの利用者は19年度は653人だったが、新型コロナウイルスが拡大した20年度は207人、21年度は157人、23年度はコロナ前に戻ってきている。観光客の減少に伴い、タクシー運転手のアテンドの質の低下を懸念する声もあり、荒木さんは「今年は重要な年。新幹線県内開業までに多くの運転手が観光案内の実績を重ね、経験値を高めてほしい」と話す。

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 21年冬。福井空港(坂井市)に小型ジェット機が着陸した。そこに三福タクシー(小浜市)の予約制の高級ワゴンが乗り付け、ジェット機の乗客を出迎えた。乗客は坂井市三国町で越前がにを食べ、その日のうちに関東へ帰った。

 同社は同年3月、新幹線開業を見据え、福井市内のタクシー会社を子会社化。高級セダンやワゴンなどを購入し、ハイヤー事業に乗り出した。料金メーターはなく、時間による貸し切り。セダンの後部座席はマッサージ機能付きだ。

 同社福井営業所長の岩崎正彦さん(52)は「ターゲットは富裕層。新幹線県内開業でハイヤー需要は高まるだろう。広々とした車内空間が売りだが、結局は接客マナーや言葉遣いも含めた『おもてなし』がポイントになる」と力を込める。

⇒取材記者のコラム「押しつけないアテンド」を読む

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 来年春の北陸新幹線県内開業を契機とした新時代の福井のあり方を探る長期連載「シンフクイケン」は第4章に入ります。テーマは「駅を降りてから」。県外客に観光地などへどう足を運んでもらうか、2次交通を含めた取り組みと課題を探ります。連載へのご意見やご感想を「ふくい特報班」LINEにお寄せください。

シンフクイケン連載シリーズ一覧

【第1章】福井の立ち位置…県外出身者らの目から福井の強み、弱みを考察

【第2章】変わるかも福井…新幹線開業が福井に及ぼす影響に迫る

【第3章】新幹線が来たまち…福井県外の駅周辺のまちづくりなどをリポート

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