被爆地を泣かせる台風

 「天泣(てんきゅう)」という言葉を「雨のことば辞典」(講談社学術文庫)で知った。天気雨、つまり日が照っているのに降る雨のことらしい▲天気雨に限らず、天が泣き、人々を泣かせる雨をそう呼んでみたくなる。沖縄付近をうろついていた台風6号は大きな爪痕を残して北上し、本県に接近している▲そのため、あす「長崎原爆の日」の平和祈念式典の会場は、長崎市の平和公園から屋内施設に変更された。主催者である市関係者だけの式典になる▲岸田文雄首相や各国大使の来訪はない。何よりも、哀悼の意と平和への祈りをささげようと毎年、炎天下の公園に集う被爆者、市民の参列が見送られるのは無念というほかない。被爆地を泣かせる台風に歯がみする▲参列を主催者に限るのは初めてで、屋内で開くのは60年ぶりという。その当時の8月9日の本紙にこうある。台風が接近中だが、当日の天候によっては〈平和祈念像前で開催する〉。屋内か屋外か、どうやら「原爆の日」の朝に決めたらしい▲当日朝まで“両にらみ”だったことに驚くが、当時は参列する被爆者がまだ若く、急な場所の変更にも応じられたことが理由の一つと想像する。それから60年、参列できる被爆者も年々減るというのに、天が泣くほどの風雨が被爆地を襲うこともなかろうに。空を仰ぐ。(徹)

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