万引き家族でくり返す “動機” はバラバラ… 父「いいものを食べさせたかった」 母「一番は夫のお金を使いたくなかった」 娘「父が絶対的だった」 法廷で語られたこと 広島

家族3人で万引きを繰り返したとして、父・母・娘が窃盗の罪に問われました。広島地裁で開かれた裁判で語った万引きの動機は、父、そして母と娘で全く別のものでした。

起訴状などによりますと、3人は共謀して去年の年末からことし2月にかけて、広島県と愛媛県の複数の大型ショッピングセンターで、掛け布団2点やハーフコートなど総額50万円以上を盗んだ罪に問われています。

初公判で3人は起訴内容について認めました。

初公判に出廷した家族3人ー。
会社員の父親(57)は白いシャツに黒いズボン。
母親(48)は黒いブラウス。
娘(25)は黒いスーツ姿で公判に臨みました。

裁判では、3人が家族で万引きをするに至ったそれぞれの背景が明らかになりました。

検察は冒頭陳述で、「当時、トラック運転手として勤務していた父親はコロナ禍で収入が減った中、家のローンなども抱えていて、家族の日用品や衣服を万引きすれば楽になると考え、万引きするように。母親と娘は父親が万引きする様子を見るうちに自ら欲しいものをカートに入れて万引きするようになった」と述べました。

家族が盗んだのは、コートやダウン、ショートブーツなど、生活用品ばかり…。カートに商品を入れたまま支払いをせずに店を出る、大胆な手口だったということです。

父親は被告人質問で、新型コロナ禍で収入が激減し、一時は40万円ほどあった月収が少ないときで15万円ほどに減ったことを明らかにしました。「住宅ローンも抱えるなかで、貯金を切り崩して生活をしていた」と話します。

弁護人
「家計を楽にしたいと思い、万引きをしたのですか?」

父親
「みじめな思いを妻や子どもにさせたくないと思いました」
「少しでもいいものを食べさせてやりたい、普通のものを着せてやりたいと考え、見栄を気にして過ごすようになりました」

最初は夫婦2人で始めた万引き。次第に娘も巻き込んで、3人で万引きを繰り返しました。

父親
「最初は肉1個が2個になり3個になり…」
「盗むものは店に行ってから決めました。1週間先の食材とすり減る中の衣類、日用雑貨、シャンプーやリンス…。減ってきてなくなったものを、という感じで決めました」

弁護人
「やめようと考えたことはないですか?」

父親
「何度も家族で話をしたことがあります。このまま続けても警察24時のテレビみたいになる、『やめにゃいけん』となる中で、家族分の食材でカートがいっぱいになったときに、盗んだらその分、毎月の生活が助かる…という思いでもう1回、もう1回とズルズル続きました」

父親は「店に迷惑をかけた」と反省の言葉を口にする中で、涙ながらにこう話しました。

「良いものを食べさせてやりたい、周りに釣り合うようにしないと…と見栄を気にしてきましたが、一番大事なものは物とかお金ではなく…ということをすごく感じました。着るものがボロでも、借家でも、子どもと一緒に笑って過ごせることの大事さというか…すごく感じました」

一方、母親や娘が語ったのは全く違う動機でした。

弁護人
「万引きをした動機は何ですか?」

母親
「一番は夫のお金を使いたくなかったからです。夫のお金を使うと、後から『してやった、食べさせてやっている』ととられるので、お店から盗った方が気が楽だったので盗りました」

涙ながらに後悔を語った父親とは対照的に、母親は小さな声でポツリポツリと話します。

弁護人
「どうしておけば良かったと思いますか?」

母親
「やめようって言えばよかったです。当時は夫に言っても機嫌が悪くなったり大きな声でしゃベられたりするからできませんでした。今回の事件でされたことはないけど、1か月に1回あるかないか、暴力を振るわれることもありました」

弁護人
「万引きを断って殴られたことがないのなら、注意をしてもよかったのではないですか?」

母親
「怖い思いもあったと思います」
「夫のせいだけじゃなくて、わたしの意志の弱さと流されやすい性格もあります。わたしがしっかりしていれば夫にやめようと伝えられた」

母親の被告人質問の間、父親は両ひざに手を当ててじっと足元を見つめていました。

さらに娘も、「父の存在が絶対的だった」と話します。

弁護人
「家族で万引きを繰り返した動機は何ですか?」


「1つはわたしの物欲です。2点目は父の存在です。ただし、父から万引きをしろと指示を受けたことはありません。父の存在はとても大きくて、反論することも思い浮かびませんでした」

娘は「父親から指示をされたことはない」と何度も強調しながらも、父親には逆らえなかったと話しました。

弁護人
「あなたがやらなければ済んだ話ではないですか?」


「父や家庭の雰囲気でやらないと言えませんでした。(犯行は)父の視線や行動など…、雰囲気から始まります」

弁護人
「父親の雰囲気を察して、従うのですか?」


「はい」

家族で繰り返した万引きに浮かんだ、それぞれの動機。

共通していたのは、3人全員が『やめようと言えばよかった』と後悔を口にしていたことです。

検察は「万引きの結果は総額50万円以上と高額で、結果は重大。生活費ほしさが動機だが犯行は悪質」などとして父親と母親に懲役2年、娘に懲役1年を求刑しました。

弁護側は執行猶予付きの判決を求め、裁判は結審しました。

最後に言いたいことはないか、裁判官から問われると、それぞれが反省の言葉を口にしたあと、証言台の前で3人そろって頭を下げました。

娘はアルバイトとして働いているほか、当時、無職だった母も今はアルバイトをしていて、今後はそれぞれが「自立した生活を送りたい」と話しています。

判決は9月に言い渡される予定です。

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