同じ“お金”でもっと幸せを高められる「ファイナンシャル・ウェルビーイング」の考え方

幅広い意味での幸福を考える「ウェルビーイング」

近年、ウェルビーイングという言葉が注目されています。

例えばWHO(世界保険機関)は健康の定義として、「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあること」としています。

OECD(経済協力開発機構)も、単にGDPを増やすだけではなく、人々のウェルビーイング向上に取り組むことが重要だとしており、我が国の政策にもそうした視点が組み込まれるようになっています。

例えば「建物(施設)」を作るのが経済的豊かさなのではなく、その施設で誰がどのような幸福を得るのか考え、またそれをKPI(指標)をもって客観的に評価する、といった具合です。

こうした議論のバックボーンには、近年ウェルビーイング学として、幸福を定量的に分析する取り組みも進められたことがあります。

例えば、結婚は幸福をもたらすのか、孤独はどうか、あるいは家を買うことは幸せなのか、友人の有無は幸福度をどう左右するのかなど「幸せを分析」した研究が行われたことで、ウェルビーイングに関する知見が大きく深まったのです。

お金の問題で幸せを導き出す「ファイナンシャル・ウェルビーイング」目線

さて、ウェルビーイングの問題は政策だけの問題ではなく、私たち個人の問題でもあります。

私は時々、「お金と幸せについて考えるファイナンシャルプランナー」という肩書きを使うことがあるのですが、こう名乗ると不思議そうな目で見られることがあります。

「お金のことをFPが話すのは分かる。でも幸せってFPが話すこと?」というわけです。

しかし、日常の多くはお金で楽しみを買っているのが現実です。

例えば旅行の計画も、一泊の予算をひとり5000円アップするとずいぶん満足度が変わりますが、予算も大きくなり経済的負担になります。

毎日食べるアイスに200円以上かけてはちょっと高すぎますが、時々ご褒美として食べると気分がアガります。

私たちは、使う金額と満足のバランスを考えながら暮らしていますし、日々の小さな幸せから大きな幸せまで、お金が関わっていることは間違いありません。。

お金はあくまで幸せのために使うものです。お金の保有金額そのものが幸せをもたらすものではありません。だとすれば、上手にお金を手にし、上手にお金を使える人は、たくさんの幸せを手に入れることができる人かもかもしれません。

OECDのウェルビーイングに関する分類でも、仕事、住宅、資産形成、教育機会など、いくつものテーマでお金と幸せがリンクしていることを示唆しています。

だとすれば、「ファイナンシャル・ウェルビーイング」の視点で、意識的にお金と幸せの関係を考えてみると、今までと異なる「幸せの手に入れ方」がみつかるかもしれません。

お金の使い方を「ウェルビーイング」を基準に考えてみよう

お金のウェルビーイング向上を考えてみたとき、ポイントとなるのは、

・しっかり稼ぐこと、ただし楽しく働くこと
・無理なくムダなく出費し日常生活を楽しむこと
・未来のお金の不安を明らかにし、備える準備をすること
・収支の余裕を、貯蓄や投資に回し資産形成すること

というお金の流れをしっかり整え、資産形成にサイクルを回していくことになります。

といってもあまり難しく考えることはありません。

例えばお金を使うとき、「ウェルビーイング」を意識してみます。最近の言葉ではコスパ、が近いニュアンスかもしれません。

コスパというとケチケチしているイメージですが、同じことを「幸せを買えているか」と考えてみます。

使ったお金に見合う満足や幸福感、できれば使った金額以上の幸せをそこから手に入れることができるかを、お金を使う基準として考えてみるのです。

そうすると、たくさんの無感動な出費があぶり出されてきます。

あるいはお金をかけて感動や興奮が得られた出費もあることに気がつきます。

どうせ無感動な出費なら、より低コストで実現したほうがいいでしょう。これこそ節約のポイントです。

買わなくてもすむものは買い控えすれば出費がゼロになります。より安い商品で置き換えできるなら差額が手元に残ります。

一方で、友人や家族との旅行、好きな俳優の観劇やアーティストのライブ参加などは、高額出費になるかもしれませんが、お値段以上の感動が手に入る「幸せな出費」かもしれません。

だとすれば、他の出費をやりくりして予算はキープしてもいいでしょう。

同じ日々を過ごすのなら、たくさん楽しみや喜びを感じられるほうがいいはずです。

お金についても気持ちよく使い、また不安を軽くするように用いたいものです。

今までの節約術は「ムダは禁止」「高い買い物は禁止」とガマンばかり考えてきました。

これからは「たくさんウェルビーイングを手に入れるお金の使い方」として考えてみてください。

未来のお金の不安軽減は資産形成が重要になる

前半で少し紹介したOECD(経済協力開発機構)のウェルビーイングの定義ですが、現在のウェルビーイングと将来のウェルビーイングに分けて分析をしていることも注目に値します。

未来のウェルビーイングというのは、今現在だけではなく将来も幸せな人生を歩むことができるようにすることです。そのためにどのようなリソースを確保できるか、が問われます。

これもまた、「ファイナンシャル・ウェルビーイング」目線が役に立ちます。

将来の経済的な不安を解消すること、つまり計画的な資産形成を行うことは、私たちの未来の不安を軽減させる力となるからです。

未来に必要なお金はどれくらいか考え(例えば「老後に2000万円」)、そのために今行われている準備がどれくらいか確認し(日常生活費は公的年金制度でおおむね確保され、また退職金制度があるならそこで2000万円の一定部分は準備されている)、さらに不足する分について安心を手に入れるための行動をします。

NISAやiDeCoに加入し、毎月一定額を積み立て、投資をする人が増えています。

実はこれ、未来のウェルビーイングを獲得していくために今できる大切なステップと整理することができるわけです。

それは同時に、目の前のウェルビーイングを高めることにもなります。

なぜなら、将来に対する漠然とした不安は今現在のウェルビーイングを下げてしまう要素であり、経済的備えがこうした不安を解消してくれる力となるからです。

あなたもぜひ、お金と幸せの関係について考えてみてください。考えれば考えるほど、誰でも幸せのヒントがある、ということに気がつくはずです。

お金との付き合い方を少し見直してみるだけで、あなたのウェルビーイングはもっと高められるかもしれません。

(ウェルなわたし/ 山崎 俊輔)

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