県内各地で精霊流し 再利用できる船に父と愛犬乗せ 九産大教授の伊藤さん

父と愛犬のため再利用できる船を作った伊藤さん(左)=長崎市赤迫2丁目

 初盆を迎えた故人の霊を西方浄土へ船で送り出す伝統行事「精霊流し」が15日、長崎県内各地であった。新型コロナウイルス感染症の「5類」移行後、初めての開催。長崎市内ではマスクを外している人も多く、夕日が故人をしのぶ人々の表情を映しだしていた。
 「目の前で壊されるのは何だかさみしい」。アートディレクターの伊藤敬生さん(60)=福岡市=は約20年前の記憶を抱きながら、SDGsをテーマに再利用できる船を作り、父と愛犬を見送った。
 長崎市大宮町出身。NHKの放送技術者だった父賢一さんが昨年8月、85歳で死去。2001年、きちょうめんな性格だった父とともに、亡き祖母の船を作った。しかし、伊藤さんは流し場で処分される様子にショックを受けた。
 現在、九州産業大芸術学部ソーシャルデザイン学科教授を務め、学生と社会問題を解決する「ソーシャルデザイン」を研究。「また何かに利用できる船を作れば、親父も喜んでくれるはず」。そう思い立ち、今回の船製作を計画した。
 かつて父が作った船の大きさを踏襲しつつ、ねじを外せば簡単に分解できて、車に積み込めるサイズ(縦1.6メートル、横0.6メートル、高さ2.4メートル)に設計した。移動や組み立てがしやすいように工夫。船は今後、学生のプロジェクトで使う展示台に再利用する。
 船に飾る賢一さんの遺影は昨年12月、16歳で亡くなった愛犬ログとのツーショット。伊藤さんは「この船が残っていれば、父やログのことを思い出すきっかけにもなる」と話し、松山町の流し場に向かった。

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