山本二三さん

 〈口も八丁、手も八丁〉では形容があまりに軽すぎるか-と心配しながら彼の「ライブ・ペインティング」を思い起こしている。ユーモアとサービス精神にあふれた解説と、画用紙の上を休みなく躍る絵筆▲舞台の上に再現した仕事机で、瞬く間に五島の海と空を描いてみせてくれたのはまだ一昨年の夏のことだ。五島市出身のアニメーション映画美術家、山本二三さんが亡くなった▲長男の鷹生さんが訃報を伝えたSNSのメッセージには〈…アトリエの机には原稿や資料が散らばっています〉とある。70歳。早過ぎるお別れを惜しむ声がやまない▲〈実は、農業を継ぐのが嫌で五島を飛びだしたんです。申し訳ないような、後ろめたいような…〉-そんな思いも胸に取材を始めた「五島百景」は10年がかりのライフワークになった▲コロナ禍にはこんな言葉も。〈芸術は衣食住のような日常の必需品ではないかもしれないけれど、つらい時に大切な風景や思い出に励まされたり、心を温められたりしたことは多くの方が経験してきたこと〉-控えめで、でも確かな自負がのぞく▲移り住んだ埼玉県には海がない。だが、絵筆があればどこへも旅ができる。昨年秋、同県で開いた「五島百景」展のポスターにはこんな言葉を添えた。「飯能へ、海を見にきませんか」(智)

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