佐世保港を支える「水先案内人」 地形熟知、船長に英語で助言も 男性パイロットに密着【ルポ】

パイロットボートの中で、飛鳥Ⅱと無線でやりとりする水先案内人=佐世保港

 佐世保港には、日々国内外の船が行き交っている。狭い港内での航行を支えるのが「水先案内人」だ。海の“パイロット”と称され、佐世保港の地形を熟知。海域の特徴を詳しく知らない船が安全に出入港できるよう、船に乗り込んで船長に助言したり、離着岸の際に指示したりする重要な役割を担う。職歴15年以上のベテラン男性パイロット(70)に密着し、港の安全を支える姿を見詰めた。

■ 危険と隣り合わせ
 人通りもまばらな午前6時半ごろ。長崎県佐世保市中心部にある佐世保川河口の岸壁で、男性は救命胴衣や資料を手に、「パイロットボート」と呼ばれる小型の船に乗り込んだ。「行きますよ」-。船はさっそうと海に駆け出した。
 この日は午前8時ごろに入港するクルーズ船「飛鳥Ⅱ」と落ち合う港の入り口付近へ向かっていた。すると、ボートの無線が鳴った。飛鳥Ⅱから「(男性が)船に乗り込む際、船の向きをどうするか」という相談だった。
 一連の業務で、ボートから船へ乗り移る時が「最も危険」という。船は縄はしごをかけ、水先案内人を待つ。乗り込む時に風を受けたり、時間がかかっていたりすると、海に落ちたり、船の間に挟まれたりする危険がある。男性は無線で、飛鳥Ⅱの船体で風を遮るよう、船の向きとはしごをかける場所を伝えていた。

パイロットボートから飛鳥Ⅱの船体に飛び移る水先案内人=佐世保港入り口付近

 今回は日本語で会話したが、仕事相手の9割は米海軍など外国籍の船。そのため英話力は欠かせない。22歳から船乗りを続け、同僚の外国人と働きながら独学で習得した。「風の音で聞き取りづらい時もあるし(誤って理解していないか)気を使うね」と苦笑いした。

■ 無線で確認・指示
 徐々に飛鳥Ⅱが見えてきた。風と波のうねりで大きく揺れるボート。船長(61)はぎりぎりまで船を近づける。「互いの船を傷つけてはいけないし、パイロットの命もかかっている。じわりじわりと近づくように心掛けている」という。男性は甲板に出ると、素早くはしごへ飛び移り、船内に消えた。
 男性によると、操縦室までエレベーターで昇り、エンジンの状態などの説明を受けたという。入港ルートを伝え、すぐに無線で行き交う船とやりとり。こちらに向かってくる海上自衛隊の護衛艦を確認すると事故を回避するため「右側通行でいけますか」などと確認した。「なるべく小まめに(無線で)確認するようにしている。その方が船長も安心するしね」
 岸壁に近づくと、離着岸をサポートするタグボートと連携。無線で「押して」「ちょっとだけ押して」など細かく指示した。船を傷つけないよう、髪をなでるようにゆっくりと着岸する、通称「ヘアータッチ」が重要という。

飛鳥Ⅱに乗り込んだ水先案内人がタグボート(右)に指示。飛鳥Ⅱの船体を押すなどして徐々に岸壁に近づけていた=佐世保市、三浦岸壁

 着岸して、飛鳥Ⅱから降りてきた男性の表情は、一仕事終えてすっきりとした様子だった。無事に終えた後、船長が感謝している様子を見ると「『うまくできたかな』と安心するね」と頬を緩めた。
 「飛鳥Ⅱが港を出るときもやりますよ。今日の仕事は少ない方かな」。男性はそう言って、記者に手を振って去って行った。港町佐世保を支える姿は、海に負けないくらい輝いて見えた。

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