福島第1原発の処理水放出受け 長崎県内関係者訴え 被爆2世「不安」、専門家「代替案を」

処理水の海洋放出に抗議する全国被爆二世団体連絡協議会の崎山会長(右)ら=長崎市役所

 東京電力が24日に着手した福島第1原発の処理水の海洋放出を、長崎県内関係者はどう見たのか。原爆放射線による健康不安を今も訴える被爆体験者や被爆2世は処理水の「不安は払拭(ふっしょく)されていない」と不信感をあらわにし、放出中止を要求。原子力政策の専門家は安全性に関する政府の説明は「楽観的」と懸念し、数十年続く作業の中で「引き返す選択肢も設け、代替案の検討を続けるべきだ」と指摘した。
 「海洋放出決定に抗議し陸上保管を求める」。放出が間近に迫った24日午前。「全国被爆二世団体連絡協議会」の崎山昇会長(64)は長崎市内で会見を開き、岸田文雄首相宛ての声明を発表した。海洋放出は「福島や全国、世界の人に放射能汚染と被ばくを強いる」と主張し、「政府と東京電力が責任を持って陸上保管を」と求めた。
 崎山会長は、低線量被ばくでもリスクがあり、核実験被害を受けたマーシャル諸島など複数の国も反対していると強調。「風評被害だけでなく健康に関わる問題。一度放出してしまえば健康や環境への影響が放出によるものと証明できなくなる」と危惧した。
 内部被ばくの健康被害を訴えてきた被爆体験者の岩永千代子さん(87)は、放射線影響について「今の科学ではまだ分からない領域があるのに、岸田首相が既存の科学の範囲で判断したことに不信感を抱く」と語気を強めた。
 一方、原子力政策に詳しい長崎大の鈴木達治郎教授は「本当に計画通りに進めばリスクは少ない」としつつも、政府や東電の説明の在り方に疑問を呈する。処理水には除去が難しい放射性物質トリチウム以外に、基準値以下であっても原発事故で汚染された多種多様な放射性物質が残っていると指摘。「それを30年以上も流し続け、その間に何が起こるか分からない。政府は世界でも前例がない、大変難しい作業であることを正直に説明すべきだ」と注文する。
 加えて、汚染水を処理する多核種除去設備(ALPS)が数十年にわたり、順調に機能するかどうかを懸念。「今回の海洋放出をずっと続けるのではなく、リスクが高まれば引き返す(中止する)選択肢を設けておくのと同時に、より地元や国際社会の理解が得られる代替案も検討し、良い案が見つかれば変更することが必要だ」と語った。


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