物流のトラック頼み転換、船・鉄道へ 運転手の残業規制にらみ

出航前のフェリーに続々と入っていくトラック=神戸市東灘区向洋町東3(撮影・風斗雅博)

 8月下旬の夕方、神戸・六甲アイランド(神戸市東灘区)のフェリーターミナルが、にわかに慌ただしくなった。係員の誘導で、大型トラックが次々と出航前の船内へ向かう。

 神戸と新門司港(北九州市)を結ぶ阪九フェリー(神戸市東灘区)の辻雅裕・関西本部長兼神戸支店長は「今まで見たことのないトラックがずいぶん増えた」と話す。

 同社によると、2年ほど前から自動車部品や冷凍食品などを運ぶ運送会社の新規利用が増えている。輸送時に排出される二酸化炭素(CO2)は陸路の約7割減。現状の輸送コストは陸路を上回るが、車両を休ませることで長く使えるなどの利点もあるという。

 近年、脱炭素の流れを受け、トラック輸送から環境負荷の低い船舶や鉄道へ切り替える「モーダルシフト」が進む。動きを加速させるのが、来年4月にトラック運転手の残業規制が強化され、深刻な人手不足が懸念される物流業界の「2024年問題」だ。

 船舶なら、運転手は乗船中に十分な休息が取れる。福岡市の運送会社は「運転手を守らなければ荷物が運べなくなる。運転手に無理をさせようとする荷主との取引はやめた」と明かす。運転手の一人も「船を使う運送会社で働きたいドライバーは多い」と話す。

 船体の大型化が相次ぐフェリー各社は、営業を強化する。神戸と宮崎をつなぐ宮崎カーフェリー(宮崎市)は昨年、新船を就航させた。現状は宮崎側からの需要が高く、担当者は「災害時の代替ルートにもなるので、阪神間側の荷主に働きかけたい」と話す。

 フェリーさんふらわあ(本部・大阪市)では今年、大阪-別府間で液化天然ガス(LNG)を燃料とする国内初のフェリー2隻を投入。従来船よりもCO2排出量を2割抑えた。神戸-大分間での導入も検討する。

 ただ、荷主や運送業者の危機感には、ばらつきもある。2年前から補助制度を設け、試行的なモーダルシフトを支援する神戸市港湾局は「海上輸送の優位性が見直されることで、神戸港の利用拡大につなげたい」と期待する。

 働き方改革に後押しされる物流業界の脱炭素対策。鉄道へのシフトも加速する。(石沢菜々子)

### ■環境配慮へ、鉄道輸送に回帰

 午前9時、ヒガシマル醤油(しょうゆ)(たつの市)の第一工場で、トラック後部のコンテナに、段ボール詰めの醤油や調味料が積み込まれた。コンテナは約20キロメートル離れたJR貨物の姫路貨物駅(姫路市)へ。約10時間後、貨物列車に積み替えられ、約700キロメートル離れた宇都宮貨物ターミナル駅(栃木県)へ向かった。

 創業400年以上のヒガシマル。輸送手段も船、鉄道、トラックと変遷してきた。環境への配慮やトラック運転手の人手不足を受け、トラックに比べて二酸化炭素(CO2)排出量を約11分の1に抑えられる鉄道輸送の比率を再び高めている。

 現在、500キロメートル以上の長距離区間は約25%で鉄道を使い、関東以北や九州方面へ商品を運ぶ。今年4月、地球環境に優しい鉄道輸送に取り組む企業を認定する国土交通省の「エコレールマーク」を取得した。

 同社営業連絡部の堀謙二郎さん(58)は「貨物駅が近く、便も安定して確保できる。今後も鉄道利用を増やしたい」と話す。

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 国は2021年の総合物流施策大綱で、脱炭素に向けた持続可能な物流としてモーダルシフトの推進を掲げる。船舶や鉄道は一度に大量輸送でき、道路の混雑解消にもつながるとする。

 だが鉄道貨物輸送の拡大はこれからだ。JR貨物のコンテナ輸送量は17年度、2243万トンだったが、22年度は1833万トンに減少した。新型コロナウイルス禍で荷動きが停滞した影響も残る中、固定された運行ダイヤが合わない▽貨車からトラックへの積み替えに時間がかかる▽災害で線路が不通になるなど天候影響を受けやすい-といった使いにくさも指摘される。

 鉄道輸送を利用するキング醸造(兵庫県稲美町)は「コンテナに効率よく積むには、卸業者との納品量やコスト面の調整も欠かせない。まだ、環境面だけで納得してもらえる取引先ばかりではない」と話す。

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 鉄道輸送の効率化へ企業も動く。食品メーカーの昭和産業(東京)は今年2月、同業の明治(同)と鉄道輸送の共同利用を開始。関東と神戸市内などの倉庫を往復するコンテナを共同で使い、中身が空になる区間を抑える。トラックに比べ、年間20トンのCO2排出削減を見込む。

 運送大手はトラック運転手の残業規制が強化される24年を前に、貨物列車一編成の半分以上を貸し切って運行する「ブロックトレイン」の導入を進める。中長距離の輸送を鉄道に任せ、運転手の負担軽減や働き方改革につなげる。

 西濃運輸(岐阜県)は18年にブロックトレインを導入。21年に拡大し、仙台から福岡の主要都市を結ぶ。同社は「長距離輸送への法令順守意識は厳しくなっている。今後も貨物列車の運用を計画したい」とする。

 鉄道輸送に詳しい流通経済大の林克彦教授は「企業が協力してコストを下げ、比較的短距離でもモーダルシフトを進める例も出ている。さらなる拡大には輸送網の整備が必要だ」としている。(横田良平、杉山雅崇)

### ■鉄道輸送、1960年代まで物流の「主役」 かつてはシェア50%超

 環境に配慮した輸送手段として注目される鉄道貨物だが、高度成長期に自動車輸送に抜かれるまで、国内貨物輸送の主役だった。国内のシェアは近年、トラックや海運に大差をつけられている。

 国土交通省によると、距離を含めた輸送量の実態を示す単位「トンキロ」ベースの国内貨物輸送の割合(2020年度)は、自動車55.3%、海運39.8%、鉄道4.7%、航空機0.1%。鉄道は自動車の10分の1以下にとどまる。

 だが、1955年度のシェアは鉄道52.6%、海運35.7%、自動車11.7%、航空機0.0%と、鉄道と自動車の立場は現代と正反対だ。

 戦前は道路網よりも、一度に大量の人員・貨物を輸送できる鉄道網整備が優先されたためだ。結果、主要幹線から地方路線まで幅広い地域で鉄道貨物が利用されることになった。

 だが、戦後のモータリゼーションの発達により、自動車輸送が注目され始める。貨物ターミナルなどを通さず、目的地まで直接運べる利便性などから、トラック輸送は著しい伸びを見せた。

 65年度に鉄道30.5%、自動車26.1%と差が縮まり、70年度には鉄道18.0%、自動車38.8%と逆転。以後、自動車のシェアは伸び続け、87年度以降はトップとなっている。

 近年、鉄道貨物のシェアは5%前後で横ばいが続く。JR貨物の担当者は「ドライバーの残業規制が強化される2024年も間近に迫り、鉄道貨物への注目は高まっている。強みの長距離のほか、今後は中距離輸送にも力を入れ、幅広い顧客を獲得したい」と強調した。(杉山雅崇)

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