見送りおわら、また見送り 恒例行事、今後も中止?

駅舎から約80メートル離れた線路沿いで始発列車の乗客に感謝の舞を届ける踊り手=富山市八尾町福島

  ●踊り手が代替ステージ

 越中八尾おわら風の盆の恒例行事としてJR高山線の越中八尾駅ホームで繰り広げられていた「見送りおわら」が昨年に続き今年も中止された。代替ステージが4日の始発に合わせ、富山市八尾町福島の駅舎から線路に沿って約80メートル離れたふれあい広場で披露され、地元の踊り手20人が優美に舞い、乗客に感謝を届けた。JRはホームの混雑で安全上やむを得ない中止措置とし、踊り手からは「お客さんとの距離を感じ、さみしい」との声が漏れた。

 全国に名が知られる風の盆は毎年9月1~3日に八尾町中心部で開催され、例年20万人前後が訪れる。見送りおわらは帰途に就く観光客に感謝を伝えるため昭和30年代に始まったとされ、同2~4日に福島おわら保存会員が始発に合わせてホームで行ってきた。乗客200人以上のほか、駅舎の外にも大勢の人が集まる人気を集め、JR西日本金沢支社の担当者は「混雑で列車の出発が遅れるなど安全面で課題があった」と中止の理由を説明した。

 風の盆は新型コロナウイルスの影響で2020、21年に中止となり、昨年は規模を縮小して3年ぶりに開催。ただ、見送りおわらは感染予防と安全面の観点から取りやめとなった。

 「お客さんに気持ちを伝え、何かお返ししたかった」。今年、同保存会の踊り手リーダーを務めた清水優作さん(24)は代替ステージに込めた思いを振り返った。期間中に見物客から「上手だよ」「感動した」などと声を掛けられ、その思いをさらに強めたという。

 ふれあい広場の特設ステージでは、午前5時過ぎに踊り手が踊りを披露。同5時39分の富山行きの発車に合わせ、線路から約25メートル離れた広場横通路で横一列に並び、列車に向かって再び舞うと、車内から多くの人が手を振って応えた。

 約80メートル離れたホームからは「ありがとー」と叫ぶ声も届き、清水さんは「距離は遠かったが、踊りを披露できて良かった。また来年も来てほしい」と話した。ただ、ホームの見送りおわらは乗客と会話できる近さだっただけに、女子リーダーの深道舞さん(26)は「お客さんとのコミュニケーションが好きだった。ホームで踊りたいという思いが強く、何とかできないだろうか」と本音を漏らした。

 JR西日本金沢支社によると、越中八尾駅では、駅員2人が毎日勤務しており、風の盆期間中は同支社や富山駅の社員が応援に入る。JR西はホームの転落事故防止など安全管理を一層強化しており、「人でごった返すホームは危険で今後も見送りおわらは中止の方向で考えている」(広報担当)としている。

駅舎内に掲示された中止の張り紙

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