終末期をどう迎えたい? 医療やケアの家族会議などを記者が体験 棺の中で浮かんだ思い【ルポ】

フォーラムで基調講演する髙尾氏=島原市有明総合文化会館

 長崎県の島原市介護予防推進フォーラムが7日、同市有明総合文化会館であり、高齢者ら約90人が人生の終末期にどのような医療やケアを受けるか事前に家族らと話し合う「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」について考えた。体験コーナーが初めて設けられ、記者(42)も人生会議と呼ばれるACPや入棺を体験した。

 フォーラムは同市地域包括支援センターなどが主催し、12回目。同市医師会長の髙尾雅已氏が基調講演した。「いつ何時、どうなるか分からない。ACPは健康なうちから終末期や介護のことを考えるということ」。介護・医療について希望などを終活ノートに書き、その存在を家族に話しておくよう勧めた。
 記者は家族と体験コーナーに参加した。終末期にどうありたいかをカードゲーム形式で考える「もしバナゲーム」は「治療困難な病気で半年から1年の命」と宣告されたという設定。最期まで大切にしたいものが書かれた全36枚のカードの中から5枚を取捨選択し、さらに3枚に絞っていく。「痛みがない」「呼吸が苦しくない」の2枚を捨て、最終的には「いい人生だったと思える」「家族と一緒に過ごす」「自分が何を望むのか家族と確認することで口論を避ける」の3枚に絞った。
 気持ちが揺れ動く。「多少、苦しみがあっても、事前に子どもの将来などについて話し合っていれば安心して死ねるかも」「痛そうだったら鎮痛剤を打ってもらって」。一緒にゲームに参加した同センターの介護支援専門員からは「普段話せない『もしもの時』のことを、事前に話し合っておくこと自体が大切ですよ」とフォローしてもらった。
 入棺体験には市内3葬儀会社が協力し、実物の棺おけが並んでいた。同市で最もよく使われているというきり製のひつぎに体を横たえた。ふたが閉じると、周囲の声がくぐもる。3分ほどたち突然、顔の上の扉が開いて家族と目が合った。「まだ死ねない。生きよう」。そう率直に思えた。
 約200件の葬儀を担当してきたという同市のマルイチ葬祭社員の酒井大輝さん(25)は「生と死は対。死を考えることは、これからの人生を見直すことにつながると考えるようになった」と語った。
 島原市在宅医療・介護相談センターが作成した終活ノートを受け取った。ノートは、島原市民であれば無料で同市医師会館内の同センターでもらえる。

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