工事現場、警備員の誘導は分かりにくい? 「任意」で決まりなく 誘導だけに頼らない「安全義務」も

警備員が交通誘導する工事現場=さくら市氏家

 「工事現場で交通誘導をしている方の合図がまちまちで進むべきか、止まるべきか迷うことがある」。下野新聞「あなた発 とちぎ特命取材班」(あなとち)に鹿沼市、パート従業員の女性からこんな意見が寄せられた。停車の合図と思って止まったら、「進め」の合図だった経験があるという。どうしてまちまちに見えてしまうのか。理由を調べてみた。

 まず最初に足を運んだのは県警備業協会。「警備員による交通誘導の合図に明確な規則はない」。協会の坪山喜久夫(つぼやまきくお)専務理事(62)は意外な事実を教えてくれた。

「交通整理」と「交通誘導」は別物

 協会によると、事故現場などで警察官が行う「交通整理」と、警備員が行う「交通誘導」は別物。警察官の交通整理は道交法などに基づき、合図の出し方は決まっており、ドライバーには従う義務がある。

 一方、警備員の交通誘導は法定ではない。言い換えれば、ドライバーの任意の協力で成立している行為に過ぎない。運転免許取得の際にも一端が垣間見える。警察官の手信号については習うが、警備員の誘導については習わない。

 ただ警備員の交通誘導にも国家資格がある。警備業法で定められた交通誘導警備業務検定だ。資格取得のための教習では、一律の合図が教えられているという。

 全国警備業協会が発行する教本をのぞいてみた。誘導灯を使った「停止」の合図の流れは、(1)体の向きを車に正対させ、(2)誘導灯を頭の上に上げて左右に小さく振って停止の予告をし、(3)誘導灯を肩の高さまで水平に下ろして停止させる。対して「進め」は、(1)体の向きを車両の進行方向と平行にし、(2)誘導灯を車両の方向から反対側の下方約45度まで大きくふり、進行を促す。

資格なしでも業務に当たれる

 一律の合図を学ぶ機会があるように思えるが、なぜ現場でばらつきが出るのか。実は、資格を取得しなくても業務に当たることができるためだ。

 都道府県の公安委員会が指定する路線では、工事現場に有資格者を1人以上配置しなくてはいけない決まりがある。この人数の規定にのっとれば、配置された警備員全員が資格を持っていないケースもあり得る。

 無資格の警備員でも警備会社入社時には、資格の教習と同様の合図を習うケースが多いが「習う機会はその時くらい」(関係者)。一律の合図を定着させることは難しそうだ。

 さらに指定路線以外では、資格者の配置すら必要ない。警備業務の委託費用を抑えるため、警備員を置かず、工事会社の社員が誘導する場合も多いという。

 では、交通誘導の合図を誤認したドライバーが事故を起こした場合の責任は誰に課せられるのか。県警交通企画課の角山弘(かくやまひろし)次長(49)に尋ねた。

合図を誤認して事故が起きた場合の責任

 角山次長によると、ドライバーには、警備員の合図だけでなく、道路や周りの車の状況などに応じ安全な速度と方法で運転する義務がある。警備員の合図を誤認して事故を起こした場合でも、義務を果たしていなければ違反になる可能性はある。事故で人を死傷させた場合、ドライバーは自動車運転処罰法違反(過失致死傷)、警備員は業務上過失致死傷に問われる恐れもあるという。

 警備員の交通誘導があったとしても、ドライバーが譲り合いの心をもって運転しなければならないことには変わりない。

 「ドライバーは自身でも安全を確認した上で、3S(SEE・発見する、SLOW・減速する、STOP・停止する)を実施し、思いやりと優しさをもってハンドルを握っていただきたい」と角山次長。意見を寄せていただいた女性に取材の結果を伝えると、「自分での判断を怠らずにこれからも気をつけて運転したい」と話した。

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