社説:同性扶養の訴訟 少数者の権利、議論急げ

 同性パートナーを配偶者と認めず、扶養手当を支給しなかったのは違憲だとして、元北海道職員が道などに手当の支払いや損害賠償を求めた訴訟の判決で、札幌地裁が請求を棄却した。

 現行の民法が異性間の婚姻しか認めていないことを厳密に解釈し、同性パートナーを事実婚における配偶者とは見なさず、扶養関係は成立しないとの判断を示した。

 同性カップルの扶養関係が争われた訴訟は全国初という。近年、自治体で同性カップルを公認するパートナーシップ制度の導入が広がり、職員への扶養手当についても少なくとも1都9県が支給できるとしている。

 同性婚を認めないのは違憲との司法判断も相次いでいる。そうした多様性を尊重する機運の高まりに水を差すものだ。

 少数者の権利を守る司法の役割を放棄し、「流れに逆行する」と原告らが反発したのは当然だろう。国は不利益を解消するための法整備を急ぐべきだ。

 原告は2018年7月と19年4月、同性パートナーを「事実婚の配偶者」として道に届け出て、扶養手当の支給や寒冷地手当の増額を請求したが、認められなかった。「自分ではコントロールが困難な性的指向に基づく差別」であり、法の下の平等を定めた憲法14条に違反するとして提訴した。

 判決は「民法が定める婚姻は異性間に限られている」と指摘した上で、条例などに特に規定がないことから、支給対象となる「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」には含まれないとした。

 柔軟な運用を試みる自治体があるとしつつも、扶養手当が公費で賄われていることを理由に、配偶者的な立場だと考える注意義務はないとしている。

 東京都などが扶養手当を支給対象とする一方、パートナーシップ制度を導入する京都市などは対象外としている。自治体間はもとより、官民の差も含めて現状を把握する必要がある。

 根底には国の後ろ向きな姿勢がある。性的少数者の権利保障に関する日本の法整備状況は、19年時点の経済協力開発機構(OECD)の評価で加盟35カ国のうち34位だ。

 6月に制定されたLGBT理解増進法でも、多数派に配慮する条項が追加され、かえって差別を助長するとの反発を招いた。

 同性カップルの人たちが異性婚者と同様に安心して暮らしやすい社会になるよう、国会で議論を深めなくてはならない。

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