朝ドラ「らんまん」愛用かばんは輪島製 万太郎、植物採集の相棒

塩山さんが残した技術力の継承を誓う駿介さん(右)と佃さん=輪島市堀町

  ●塩山板金3代目が図面、ドラマ登場待たず亡くなる

  ●親方の情熱と技、後世に

 NHK連続テレビ小説「らんまん」で、植物学者の主人公が愛用するブリキかばん「胴乱(どうらん)」を手掛けた板金工場が輪島市にある。創業94年の塩山(しおやま)板金工業所で、細やかな手仕事が番組制作サイドの目にとまり、依頼を受けた。しかし、図面を引いた3代目の塩山和也さんは白血病のため、胴乱が登場する放送回を待たずして7月に67歳で亡くなった。残された職人たちは、ドラマに映る遺品を見つめ、先代の情熱と技を受け継ぐ決意を新たにしている。

  ●浜辺美波さん出演

 「らんまん」は植物学者・牧野富太郎の生涯をモデルにしたドラマで、神木隆之介さんが主人公の万太郎を、北國新聞社のCMに出演する浜辺美波さん=石川県出身=がその妻を演じ、29日に最終回を迎える。

 胴乱は植物採集に使用するかばん。まだビニール袋などがない時代、植物採集には必需品で、塩山板金によると、一枚のブリキの板から、丸みを帯びた形に仕上げるのが難しいという。

 塩山板金は1929(昭和4)年創業の老舗で、屋根や外壁などの修理のほか、ブリキや銅板を使ったアートやオブジェも手掛けている。胴乱のメーカーは現在、国内になく、何度かオーダーメードで対応したことがある塩山板金にNHK側から声が掛かった。

 NHKの担当者は塩山板金の胴乱について「モノづくりに長けた風土が根付いた輪島らしい細やかな作りが特徴になっている」と出来栄えを評価する。今月14日の放送回から登場し、主人公が亡き娘が描いた絵を胴乱にしまう印象的なシーンでも使われた。

  ●「見るまでは頑張る」

 塩山さんは昨年11月に急性白血病と診断され、今年5月に製作の依頼を受けた際は、闘病生活のまっただ中にあった。「お客さんを大切にし、受けた仕事は何があってもやり遂げる人だった」と妻の厚子さん(62)が言うように、病を押して6月末に図面を仕上げた。毎朝の放送を欠かさず見ており、9月中旬から胴乱が映ると知らされると「見るまでは頑張るから」と話していたが、願いかなわず7月11日に帰らぬ人となった。

 胴乱を完成させたのは従業員で、この道35年の板金職人佃幸二さん(50)だ。全国建築板金競技大会で日本一に輝いた技術を生かし、塩山さんが残した図面を基に仕上げた。「親方(塩山さん)のように挑戦する気持ちを忘れずに取り組んだ」と魂を込めた胴乱づくりを振り返る。

 塩山さんは東京出身で、29歳の時に婿入りして板金の世界に入り、ずぶの素人から仕事を覚えた苦労人。人脈を築き、県板金工業組合理事長も務めた。同じく婿入りして跡を継ぐ4代目の駿介さん(38)は、ドラマに胴乱が出るたびに先代を思い出すとし、「一つずつ仕事を覚え、先代が残した技術や人のつながりを大切にしていきたい」と誓った。

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