中秋の名月の色

 「日本の色彩」の図鑑を開いてみると、なぜかしら心が和む。秋らしい「柿色」にはいくつかあって、熟した柿の実のような赤みの濃い「照柿(てりがき)」、淡い「洗柿(あらいがき)」、もっと淡い「洒落柿(しゃれがき)」…と、色合いも印象も一つ一つ異なる▲「日本の色」と聞いて目に浮かぶのはどんな色だろう。藍染めの色、春の桜色は代表格とおぼしいが、例えば藍色といっても、透けるように淡い「瓶覗(かめのぞ)き」に、明るい青緑色の「浅葱(あさぎ)」と、それぞれ趣があり、一つ一つに名前がある▲100年ほど前、歌人の与謝野晶子は古人が色を見つめた繊細な心に倣い、色の名前を考案した。デパートの高島屋に依頼されて新作の着物の流行色を命名し、その数は280余りに及んだという▲黄色がかった穏やかな緑色を「平和色」と名付け、渋い緑は「木(こ)の間緑(まみどり)」、淡い紅色は「濱撫子(はまなでしこ)」と、数々の優美な名を生んだ。新作の着物や帯を題材に、多くの詩歌も詠んだというから、晶子の楽しむさまがうかがえる▲「月(つき)の出色(でいろ)」という、夕暮れ時の月明かりに着想を得たらしい色もある。きょうは中秋の名月、今年も満月と重なって輝きをいっそう増すらしい▲夕映えの「柿色」はやがて「月の出色」に移ろうだろう。一年のうちでとりわけ明るく、澄んだ月の色、空の色を命名してみるのも一興かもしれない。(徹)

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