社説:大谷選手の快挙 常識破り米球界の顔に

 数々の常識を打ち破り、なし得た栄冠を共に喜びたい。

 米大リーグ、エンゼルスの大谷翔平選手が、アメリカン・リーグ最多となる44本塁打を記録し、日本選手初の本塁打王に輝いた。

 メジャー6年目で、投打のタイトルは初めてである。日本選手が打撃部門の主要タイトルを獲得したのは、2004年に2度目の首位打者となったイチロー選手(マリナーズ)以来だ。

 今年、大谷選手の活躍は飛び抜けていた。3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、日本の3大会ぶりの世界一をけん引。休む間もなく、大リーグ開幕から躍動した。

 特に6月は、球団と日本選手の月間最多記録となる15本塁打を放ち、9本塁打の7月と2カ月連続でア・リーグの月間最優秀選手(MVP)に輝いた。8月にはメジャー史上初となる2年連続の「2桁勝利、2桁本塁打」を達成し、規格外の力を示した。

 ストライクゾーンのほとんどで長打を打てるようになったことが大きい。肉体を徹底的に鍛え上げたパワーを生かし、練習に導入した最先端の打撃マシンで相手投手への対応にも磨きをかけた。これまで技巧派の印象が強かった日本人打者像を覆した。

 負担の大きい投打の「二刀流」を続け、素晴らしい記録を残せたのは、練習メニューの工夫や体調管理の徹底など、不断の努力の結果にほかなるまい。

 ア・リーグMVP受賞も有力視され、米球界のスターとして唯一無二の存在になったといえよう。

 人気の理由は成績だけではない。真摯(しんし)で礼儀正しいプレー態度と、気さくなファン対応でリーグ活性化に一役買っている。リーグ交流戦の試合数が倍増したのも、大谷選手を迎えてファンを呼び込もうとするものだろう。

 オフには移籍先を交渉できるフリーエージェントとなる。残留か、移籍か。決断に注目したい。

 気になるのは、靱帯(じんたい)を損傷して9月に手術した右肘の具合だ。24年は打者に専念して出場する。三冠王も狙えるのではないか。25年には二刀流で復帰できる見通しという。治療やリハビリで、完全復活した勇姿を見せてほしい。

 WBCでは、有名選手が並ぶ米国との決勝前に「憧れるのをやめましょう」と仲間を鼓舞したエピソードが話題となった。東北の野球少年が世界で活躍できることを自ら証明した。子どもたちにとって大きな夢や目標となるだろう。

© 株式会社京都新聞社