絶滅危惧イナゴ生息域拡大 農薬抑制で?作物被害懸念

ハネナガイナゴを集める弘中准教授=野々市市内

  ●本社調査団が白山、野々市で初確認

 絶滅が危ぶまれている「ハネナガイナゴ」が、石川県内で生息域を拡大していることが分かった。北國新聞社の手取川環境総合調査団が9、10月に実施した調査で、5年前はゼロだった白山、野々市両市内で初めて個体を確認した。従来の河北潟周辺から分布を急速に広げており、調査団の専門家は今後も数が増えると予想。大量発生すれば手取川流域での農作物被害が懸念される。

  ●河北潟から南下

 ハネナガイナゴは他のイナゴと同様、稲の害虫とされる。もともと北陸地方に少なく、石川県が2020年に準絶滅危惧種に指定した。

 調査は弘中満太郎県立大准教授が金沢、白山、野々市、能美各市の計25地点で実施した。河北潟近くの金沢市才田町で最多となる92匹を発見したほか、同市粟崎町では2018年の前回調査に比べて18匹多い41匹を採集。新たに見つかった野々市市では28匹、白山市でも目視による調査で個体を確認した。

 弘中准教授によると、河北潟周辺では、稲の害虫「ニカメイガ」を駆除するため、農家が殺虫効果のある農薬を使用していた。しかし、近年は被害が減ったため使用頻度が減り、結果としてハネナガイナゴ増殖の一因につながったとみられる。

 イナゴが大量発生すると、稲の葉が食い荒らされてコメの品質や収量の低下につながるほか、光に集まる習性から、夜間の住宅やコンビニに入り込む被害も懸念される。氷見市では21年にイナゴが大量発生し、稲やマコモタケ、ハトムギへの被害が発生した。

 白山市の農事組合法人「北辰農産」によると、同市内では現時点でイナゴによる収穫への影響は出ていない。ただ、舘喜洋代表(40)は金沢など知り合いの農家で被害が生じたケースがあるとし「対策には費用も手間もかかる。大量発生する可能性があると思うと恐ろしい」と身構えた。

 弘中准教授は、イナゴが河北潟以南だけでなく、他のエリアにも生息を広げているとみて、今後、能登地区での調査も実施する。河北潟から金沢の市街地を飛び越えて白山市内にまで広がったことに触れ「かなり生命力が強い。農薬だけでなく、人の生活様式なども関係している可能性がある」とし、さらに詳しく調べる考えを示した。

 ★ハネナガイナゴ バッタ目バッタ科の昆虫で水田や湿地に生息する。成虫は8~11月に姿を見せ、体長は2~4センチほど。イネ科植物を摂食する。石川県レッドデータブックには「県内における記録は少なく、生息地も限定的である」と記されている。

生息範囲を広げているハネナガイナゴ

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