また連戦が始まる…/原ゆみこのマドリッド

[写真:©Atlético de Madrid]

「何だ、元に戻っちゃったのね」そんな風に私が肩をすかされていたのは月曜日、リーガの順位表を見た時のことでした。いやあ、土曜の夜にはアトレティコが2位に上昇。いよいよ首位のお隣さんとの差が勝ち点3になったため、これは12月23日に行われる、大雨警報で延期となっていた4節のセビージャ戦に勝てば、9月のマドリーダービーで勝利していることもありますし、レアル・マドリーの上に立って、年を越せるかもしれないと夢想したものでしたけどね。そこが間に2チーム入っている故の難しさで、ええ、日曜には10節開始前に2位だったジローナがアルメリアに5-2と大勝。

終盤までスコアレスドロー濃厚だった3位のバルサも17才ながら、身長187cmの大型カンテラーノ(バルサBの選手)、マルク・グイウがピッチに入って、たったの33秒で決勝ゴールを挙げ、アスレティックに1-0と勝ったため、アトレティコはまた4位に落ちてしまったんですが、まあ、リーガは長丁場ですからね。どちらにしろ、今週末のクラシコ(伝統の一戦)でどんな結果が出たとしても、勝ち点でマドリーと並んだジローナ、差を1ポイントに縮めたバルサが笑うことすらあれ、シメオネ監督のチームが首位になることは絶対ないため、今は差し迫ったCL3節に全力を注ぐのが懸命かと思いますが…。

そんなことはともかく、先にマドリッド勢の先週末のリーガ戦がどうだったか、お話ししていくことにすると、土曜試合に当たった3チームの先頭を切ったのは弟分のヘタフェ。コリセウムには3000人近いベティスファンも駆けつけて、お日様の照っている午後4時過ぎのキックオフとなったんですが、開始からたったの57秒で冷や水を浴びせられるとは!そう、各国代表戦週間で間が空いたせいで気が緩んでいたのか知りませんが、ボルハ・イグレシアスがエリア内に送ったボールを易々とマルク・ロカに決められいるんですから、呆気に取られたの何のって。

ただ、それで一気に目が覚めたか、ヘタフェも17分にはディエゴ・リコが左から入れたクロスをボルハ・マジョラルがヘッドで決め、1-1の同点に追いついたんですが、その先が停滞してしまってねえ。ベティスではイスコやアサネ・ディアオが時折、いいプレーを見せ、ヘタフェもマジョラルや途中出場のラタサにチャンスがあったんですが、スコアはそれ以上動かず、1-1のままで終了。おかげで試合後は、「相手はun equipo que juega al límite del reglamento/ウン・エキポ・ケ・フエガ・アル・リミテ・デル・レグラメントー(ルール違反すれすれでプレーするチーム)。今日もカウンターを止めるため、6、7回、ウチの選手の顔を手で払っていた」とペレグリーニ監督に批判される破目に。

もちろんボルダラス監督もそんな批判には慣れたもので、「Esto es un corta y pega/エストー・エス・ウン・コルタ・イ・ペガ(コピー&ペーストの言葉だ)。ルール違反すれすれ。ウチに勝てないと相手はいつもそう言う」と軽くいなしていましたが、これでヘタフェも4試合連続引分けですからね。試合終盤など、GKダビド・ソリアのゴールキックや選手交代時に結果を守るため、あからさまな時間稼ぎ行動が見られましたし、一応、順位は1つ上がって11位となったとはいえ、土曜のマジョルカ戦ではそろそろ勝利の味を思い出さないとマズかも。そうそう、月曜にはショックなニュースも入ってきて、ベティス戦のハーフタイムに交代となったアランバリがヒザの半月板と靭帯を部分断裂。全治8カ月で今季絶望となってしまったんですが、昨季もずっと足首の負傷に悩まされていた彼だけに、本当に気の毒ですよね。

そして土曜は続く時間帯でセビージャvsマドリー戦が始まったんですが、まだ私がコリセウムのプレスルームにいるうちから、サンチェス・ピスファンでは後々、議論を巻き起こすジャッジがあったよう。ええ、まず前半4分にはセビージャのエリア内でボールが行きかった挙句、バルベルデが右奥から撃ったシュートがゴールに入ったんですが、ベリンガムがミリメーター単位でオフサイドの位置にいたとして、スコアに挙がらず。更に9分にも、うーん、これは自陣エリアの近くでリュディガーがオカンポスを倒してボールを奪ったとして、主審がファールの笛を吹いたのが聞こえたか、聞こえなかったのか。得意の高速カウンターを発動したマドリーはロドリゴが数秒で敵陣を上がり、そのラストパスから、ベリンガムがシュートを決めて、お馴染みのお祝いポーズまで完了させたんですけどね。

当然、ファール後のプレーですから、これもスコアには挙がらなかったんですが、そのせいでケチがついたんですしょうか。前半はラキティッチのシュートをカルバハルがライン上でクリアするピンチもあったマドリーは44分、ヘスス・ナバスがエリア内でビニシウスの背中を押して倒しながら、ペナルティを取ってもらえず。そのまま0-0でハーフタイムを迎え、後半22分にバルベルデ、チュアメニがモドリッチ、カマビンガに代わった少し後、ようやく私も近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)に滑り込んだところ…。

ラッキーでした。というのも後半30分、アクニャが左から送ったクロスをゴール前でエン・ネシリから守ろうとしたアラバが胸に当て、オウンゴールでセビージャが先制点を挙げるシーンに間に合ったからですが、もちろん、マドリーも負けていませんよ。そのすぐ3分後にはクロースのFKをカルバハルが見事なヘッドで決めて追いついたんですが、え?普通、彼のような小柄な選手はセットプレーの時、エリア外で敵に跳ね返されたボールを待っている係をすることが多くないかって?そうなんですが、カルバハル曰く、「Este año hablé con el cuerpo técnico y quieren que suba a los corners/エステ・アーニョ・アブレ・コン・エル・クエルポ・テクニコ・イ・キエレン・ケ・スバ・ア・ロス・コルネルス(今季、コーチングスタッフと話したら、CKの時などに上がるように求められた)」のだとか。

それこそ、2年前まで同僚だったセルヒオ・ラモスも絶賛するだろう首の捻りだったのはともかく、今季は18年ぶりに戻ったセビージャの勝利に貢献しようと、その当人も得意のヘッドで撃っていったんですけどね。残念ながら、GKケパにparadon(パラドン/スーパーセーブ)されてしまい、後はマドリーがお家芸、根性のremontada(レモンターダ/逆転劇)を見せてくれるのか、興味が持たれたんですが、ダメですよ、ビニシウス。いくらプレー再開を急いでいるからって、GKナイランドから強引にボールを奪っては。おかげで全軍入り乱れるtangana(タンガナ/小競り合い)が始まり、アンチェロッティ監督もイエローカードをもらった彼を引っ込めざるを得なくなってしまいましたが、それも影響しましたかね。ロスタイムが7分もあったにも関わらず、試合はそのまま1-1で痛み分けすることに。

いやあ、この日のジャッジについて尋ねられたアンチェロッティ監督は、記者会見では「Yo creo que el árbitro ha acertado en todo, hizo un partido de nivel/ジョ・クレオ・ケ・エル・アルビトロ・ア・アセルタードー・エン・トードー、イソ・ウン・パルティードー・デ・ニベル(審判は全てにおいて正しかったと思う。レベルの高い試合だった)」と模範的なコメントをしていたんですけどね。それが即座にレアル・マドリーTVのインタビューで手の平を返し、「La ironía es la única manera/ラ・イロニア・エス・ラ・ウニカ・マネラ(皮肉が唯一の方法だ)。本当に考えていることを言えば、何試合もベンチ入り禁止処分を喰らうからね」と審判批判を避けたことを肯定しているって、うーん、彼にしては珍しく、相当怒っていた?

そしてこの件は月曜にマドリーがCLスポルティング・ブラガ戦のためにポルトガルに移動。現地での前日記者会見でも尾を引いて、しつこく「審判はわざとマドリーに不利な判定をしているのか」と問われたアンチェロッティ監督は、「yo no tengo libertad de expresión para hablar de los árbitros/ジョー・ノー・テンゴ・リベルタッド・デ・エクスプレシオン・パラ・アブラル・デ・ロス・アルビトロス(私には審判について表現の自由はない)。喋ると処分を受けて、試合で働けなくなるから、答えられない」と繰り返していましたが、こればっかりはねえ。

まあ、その辺はあまり深く考えていても始まりませんし、何より優先すべきは火曜午後9時(日本時間翌午前4時)からのグループリーグ3連勝が懸かった試合。遠征メンバーもセビージャ戦と同じく、セバージョスとギュレルが欠けただけ、リーガで出場停止だったナチョが加わったぐらいの変化しかありませんが、とにかく今はブラガに勝って、気分を晴らしてから、クラシコに臨んでくれることを期待するばかりです。

そしてまた土曜試合のリーガに話を戻すと、マドリー戦の直後にバライドスでキックオフとなったのがアトレティコで、いやあ、こちらもparon(パロン/リーガの停止期間)呆けだったんでしょうか。ケガが復帰したバリオス、お留守番組だったマルコス・ジョレンテ、サムエル・リノを筆頭に、序盤はパスが3度と繋がらない悲惨な状態のシメオネ監督のチームだったんですが、そんな彼らに救いの手を差し伸べてくれたのはセルタのGKビジャルでした。ええ、前半24分にエルモーソが上げたクロスをキャッチできず、落としたボールを取りに来たモラタを倒してしまい、ペナルティ献上だけでなく、レッドカードをもらって退場って、こんなラッキーなことがあっていい?

急遽ピッチに入った、2014-18年には弟分のヘタフェでプレーし、その後、クリスタル・パレスに移籍。今季になってスペインに戻ってきたGKグアイータ相手にそのPKをグリーズマンが決め、先制した時にはまるで狐に化かされたような気分でしたが、まだ今季1勝しかしておらず、降格圏に沈んでいるセルタは10人になっても諦める訳にはいきませんからね。ハーフタイムが来るまで、アトレティコはずっと自陣に押し込まれ、フリーのシュートを何度も許していたため、いつかは同点にされるのではないかとハラハラしていたところ…。

大丈夫。後半頭から、ヒザを捻ったリノとバリオスがリケルメとモリーナに交代。更にバンバにゴールバーを直撃するシュートを撃たれた後はサウール、ジョレンテもデ・パウル、コレアに交代と、シメオネ監督が人事刷新したのが効いたんでしょうか。19分にはフランス代表の2試合にも出場し、一番疲れているはずのグリーズマンが自陣からドリブルでスタート。マヌ・サンチェス、ウナイ・ヌニェスに邪魔されながら、ボールが自分に戻って来たのも幸いしたんですが、そのまま敵エリア内まで行ってしまう珍しい光景に目を瞠っていると、そのままシュートまで決めてしまったから、ビックリしたの何のって。

いえ、実はこれ、後で当人も「Era un centro y por eso le pedí disculpas a Álvaro/エラ・ウン・セントロ・イ・ポル・エソー・レ・ペディ・ディスクルパス・ア・アルバロ(あれはクロスで、だからモラタに謝ったんだ)。ラストパスを出そうとしたんだけど、右足だったから、どこに行くかわからなくてさ」と認めていたんですけどね。そんなミスキックがグアイータのニアサイドを突いて、ゴールになってくれるとは、まさに「son rachas de delantero/ソン・ラチャス・デ・デランテーロ(FWがゴールづいている時)」(グリーズマン)ならではのこと。おかげでリードを2点に広げたアトレティコには落ち着きが戻り、25分には完璧な連携からのゴールも披露してくれたんですよ!

そう、今度はモリーナからパスをもらったモラタがセンターからドリブルで走り出し、エリアに入ったところでモリーナに戻すと、その彼が正確無比なラストパスをゴール前へ。その場にいたのはご存知、グリーズマンで、ワンタッチのシュートでハットトリックを達成してしまったとなれば、「A Griezmann hay que cuidarlo/ア・グリーズマン・アイ・ケ・クイダールロ(グリーズマンは労わらないといけない)」と31分にはもう、シメオネ監督が彼を引っ込めてしまったのも当然だった?まあ、その後にも代わりに入った、やはり負傷が治ったばかりのCBソユンチュがコケのクロスからヘッドでゴールを決めながら、オフサイドで認められなかったとか、コケがゴール前からシュートしながら、グアイータに弾かれてしまったなんてこともあったんですけどね。

0-3の勝利で前回の代表戦週間直後、バレンシアに3-0と完敗した不名誉も晴らせましたし、この流れなら、水曜午後9時からのCLセルティック戦では、1974年欧州選手権準決勝のセルティック・パークでアトレティコが着用した上は赤一色、パンツは青という、復刻版記念ユニでプレーしても選手たちの気が散るということはない?何せ、彼らがCLグループ敗退する時は必ず3、4節の連戦で躓いていますからね。とりわけ、相手は日曜に前田大然、古橋亨梧、岩田智輝の日本人選手3人が揃い踏みでゴールを挙げ、ハーツに1-4と勝ったばかりでもあるため、とにかく油断だけはしないでもらいたいものです。

そして唯一、日曜試合となった弟分のラージョはラル・パスマスのホームを訪れたんですが、後半45分にトレホがアレックス・サンチェスにエリア内で倒され、ロスタイムに決まったベベのPKで0-1と勝利。前半にはアリダネのハンドでラス・パルマスにPKを献上し、昨季までヘタフェにいたムニルがGKディミトリエフスキとポストに阻まれて失点を免れたなんてこともあったため、多分にラッキーな白星だったかと思いますが、おかげでフランシスコ監督のチームは4試合連続の引分け地獄をとうとう脱出することに。これはもう1つの弟分にも見習ってもらいたいところですが、今週末のラージョはCL出場組のレアル・ソシエダをエスタディオ・バジェカスに迎えることに。火曜にリスボンでベンフィカ戦をこなしてから来る相手に勝てば、EL出場圏6位の地位を奪える可能性もあるため、このフリーなミッドウィークを活用しない手はありませんって。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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