一体なぜ? 57年前と大きく変わった検察の“立証方針” 袴田巖さんの再審=やり直し裁判の流れ【袴田事件再審初公判】

再審=やり直し裁判は「冒頭手続き」から始まり「判決」まで通常の一審の裁判と同じように進んでいきます。

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この中で10月27日に行われたのは「冒頭手続き」と「証拠調べ」です。

午前11時、まず初めに検察による起訴状朗読があり、その後、裁判長から袴田さんに代わって出廷した姉のひで子さんに対して、罪状認否が行われました。

起訴内容が事実か、裁判長に問われた姉のひで子さんは訴えました。

「1966年、静岡地裁の初公判で弟、巖は無実を主張しました。それから五十余年にわたり、紆余曲折、艱難辛苦がありました。再び、私も弟、巖に代わりまして、無実を主張いたします。どうぞ弟、巖に真の自由をお与えくださいますよう、お願い申し上げます」

犯行を全面的に否認した袴田さん側に対して、午前11時15分に始まった検察側の冒頭陳述でこちらも57年前と同様「犯人は袴田さんしかいない」と改めて有罪立証の姿勢を示しました。

57年前に開かれた一審・静岡地裁と同様の構図になったわけですが、検察側の主張で57年前とは大きく異なる点がありました。

27日、検察側、弁護側が明らかにしたのは、どんな証拠をもって、お互いの主張をしていくかということです。

ここで明らかになったのは、今回のやり直し裁判では、検察側がこれまでは重要な証拠と位置付けてきた袴田さんの自白調書を有罪の立証に使わないということです。

自白調書には▼袴田さんが「店の売上金を盗むため」と一度は供述した犯行動機や▼事件当日の侵入経路などが記されていましたが、この自白調書は、もともと不可思議な点が多いものでした。

逮捕後に作成された袴田さんの自白調書は、任意性に疑いがあるとして45通のうち44通を証拠から排除。

この背景について一審判決から40年近くが経過した2007年、静岡地裁で死刑の判決文を書いた元裁判官が守秘義務を破り、告白しています。

<元裁判官 熊本典道さん>
「自白調書が非常に数が多かったでしょ。取り調べ期間がね、20日ちょっとの間、連日連夜ですよね。こんなもの証拠として認めるわけにはいかんと。他の2人の裁判官にしてみれば『1通ぐらい認めてやれよ』と。私は「じゃあ、そうするか」と、妥協の産物ですよ」

なぜ、検察は一度は認められた自白調書を今回は証拠から外すのか。

裁判官として30件以上の無罪判決を確定させ、映画やドラマのモデルにもなったともいわれる木谷明さんは指摘します。

<元東京高裁判事 木谷明弁護士>
「(袴田さんを死刑とした)確定審のころは自白調書があれば、認定してもらえると思ったんでしょう。だけど、今となってみると自白調書はかえって邪魔なんですね。検事の主張と合わないから。ともかく強盗殺人をしたのはこの人だと、それを客観証拠で立証すると方針転換をしたんだと思いますよ。(自白調書)それを主張するとむしろやぶ蛇になるんじゃないかと」

自白調書を使わずに有罪を立証することについて、静岡地検の奥田洋平次席検事は取材に応じ「自白調書を証拠にした当時の立証方針は分からない。ただ、今、再審を担当している静岡地検の判断から外した理由は「言えない」とコメントしました。

やり直し裁判は、事件から1年2か月後に現場から発見された血の付いた衣類「5点の衣類」に残る血液の色について、1年以上みそにつけても血が赤いのか、それとも黒くなるのか、ここが最大の争点となります。

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