黒留め袖ドレスに 「キモノクチュール」始動 老舗呉服店×元プラダのテーラー×パリコレモデル

黒留め袖を仕立て直したドレスとスーツを着るモデル=富山市内

  ●装いの新たなカタチ創造

 富山市の老舗呉服店と有名ブランドで活躍してきた同市在住のテーラー、英国を拠点に活動するファッションモデルがチームを組み、着物の可能性を広げるプロジェクトを始めた。第1弾として黒留め袖を仕立て直したドレスとスーツを30日に発表。11月から黒留め袖の仕立て直しやフォトウエディングに応じる。着物文化の新たなカタチを創造し、タンスに眠る品々の活用にもつなげる。

 プロジェクト「キモノクチュール」を進めるのは、創業175年の牛島屋の武内孝憲社長(51)とプラダやクリスチャン・ディオールなど一流ブランドのチームにテーラーとして在籍し、昨年に独立した高松太一郎さん(40)、武内社長の長男でパリ・コレクションなど世界で活躍するモデルの秀龍(ひでたつ)さん(26)ら5人。親から子へ受け継がれる「着物の物語」を守り、発展させたいと手を携えた。

 武内さんが社長を務めるグループ会社で、ブライダル事業を手掛けるハミングバード(同市)もプロジェクトに参画する。

 プロジェクトのきっかけは2021年、秀龍さんが不要となった着物を自分用のスーツに仕立て直し、写真を交流サイト(SNS)に投稿したことだ。「母から娘に譲られる固定概念があったが、こうすれば息子にも譲ることができる」。武内社長は自身が送った着物が斬新なデザインとなって変貌した姿に驚き、新しい可能性を感じたという。

 高松さんは福岡市出身で、フランス滞在中の18年に縁あってハミングバードの社員と一緒に仕事をした。22年に富山市に移住し、今春に市内でアトリエを開業。武内社長の思いに賛同し、デザイナー兼テーラーとして企画への参加を決めた。

 民間調査会社「矢野経済研究所」(東京)の調べでは、1970~90年代に生産・購入された着物の多くが家庭で眠っており、その数は約3千万着に上るとされている。廃棄される現状もあり、武内社長によると、牛島屋にも多くの引き取りの相談があるという。

 30日は市内でプロジェクトの写真撮影が行われ、ドレスとスーツを着用したモデルから「思ったより軽い」「質感がいい」との声が上がった。武内社長は「現代の価値観や生活になじみながらも着物文化を改めて大切にできる環境をつくりたい」と話した。

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