社説:脳死判定1000例目 臓器提供支える体制充実を

 臓器移植法に基づく、国内での脳死判定が千例となった。

 同法が1997年10月に施行されてから26年かけての数である。3月末までの累計提供数は京都が14件、滋賀は16件にとどまる。

 脳死による臓器提供で、移植を受けられたのは希望者の3%にしか満たない。提供者の抜本的な拡大という課題を抱えたままだ。

 内閣府が2021年に実施した世論調査では、脳死などになった場合の臓器提供について、4割が「したい」と答えたにもかかわらず、実際に意思表示をした人は1割にとどまった。

 脳死が死だと受け入れることへの抵抗感などがあると考えられる。「したい」人が意思表示へと結びつくよう正しい知識と情報を伝え、社会の理解を一層深めなければならない。

 10年の法改正では条件が緩和され、本人の意思表示が不明でも、家族の承諾だけで提供できるようになった。臓器提供数は増え、近年は年100件で推移している。

 だが、人口100万人当たりの脳死提供者数を見ると、日本は0.88人だ。米国は約50倍、韓国は約9倍で、他国と比べて少なさが際立つ。

 臓器移植を希望する人は約1万6千人。待機期間は腎臓で平均14年8カ月、膵臓(すいぞう)で約3年半と長期に及ぶ。待機中に亡くなる人も多い。

 ここ数年、臓器提供のきっかけの大半を占めるのが、医療者から家族に脳死提供の道があると伝える「選択肢提示」だ。

 厚生労働省によると、臓器提供の体制が整っている施設のうち、患者に提供意思があるかどうかを事前確認していたのは約3割だった。それ以外の施設では、提供という選択肢があることすら聞かされていない患者や家族も多いとみられる。

 医師にとって優先すべきは患者の救命である。臓器提供の選択肢を家族に示すことに対する心理的負担も大きい。

 救急医療では専門職「入院時重症患者対応メディエーター」が、家族と医師らの間に入り家族に寄り添う役割を果たす。

 提供を強いるのではなく、納得した意思決定につながるよう家族を支える重要な存在だが、普及はこれからだ。脳死判定ができる医師の育成なども含め、臓器提供に向けた医療基盤を充実させる必要がある。

 一方、慢性的な提供者不足から、海外での手術を求め渡航する人もいる。

 移植に必要な臓器は自国でまかなうことが国際的な原則だ。2月には渡航移植を違法にあっせんしたとして、関係者が逮捕、起訴された。仲介業者への規制強化も含め、法や制度の見直しを急ぐべきだろう。

 移植医療でしか救えない命のため、国も医療界も知恵を絞り、改善に取り組みたい。

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