社説:ガザの人道危機 ただちに休戦し命救え

 ガザの市民は生活基盤を失い、極限の状態に追い込まれている。国際社会が求める「人道休戦」に向け、イスラエルは侵攻をやめるべきだ。イスラム組織ハマスも攻撃を停止し、すべての人質を解放しなければならない。

 イスラエルのネタニヤフ首相は「戦争が新たな段階」に移ったと表明。停戦は「ハマスやテロへの降伏だ」と主張した。

 軍は「越境作戦」と称してパレスチナ自治区ガザに戦車を投入し、なし崩しで事実上の地上侵攻を広げているとみられる。

 ハマス関連施設があるとして、住民に避難場所として指示したガザ南部や、病院周辺へも空爆を強めている。イスラエルによる「完全封鎖」で、水や食料、燃料、医療物資が入らない中、病院は多くの負傷者を抱え、住民の避難場所にもなっている。

 空爆による民間人の犠牲は日ごと数百人単位で増え続けており、人道危機は深刻化する一方だ。

 イスラエルの制限を受け、国連の支援物資も「大海の一滴に過ぎない」(担当者)状態という。

 国連総会(193カ国)は緊急特別会合で、イスラエルとハマスに「人道的な休戦」を求める決議を採択した。121カ国が賛成し、反対は14カ国だった。

 強制力はないものの、国際社会の重い意思としてイスラエルに自重を促し、民間人の救済優先を求めたといえよう。

 これに対し、イスラエルは自国の被害を強調し、国連を批判している。3週間余り前のハマス奇襲を踏まえ、イスラエルに一定の自衛権行使を認めるとしていた国でも、ガザ侵攻の拡大は国際人道法違反との声が広がっている。総会決議の前に欧州連合(EU)が首脳会議で、戦闘の一時中断を求めたのは象徴的だ。

 国連のグテレス事務総長もハマスを非難しつつ、国際法違反のイスラエルの占領政策が歴史的な背景にあるとも指摘した。

 一方、国際平和と安全を担うべき国連安全保障理事会は、目を覆うばかりの機能不全にある。拒否権を持つ常任理事国の思惑で、法的拘束力のある決議が採決できない。総会決議でも中国、ロシア、フランスが賛成。米国が反対、英国が棄権した。

 非常任理事国の日本も棄権したのは残念だ。休戦の鍵は、イスラエルの最大の後ろ盾である米国が握る。日欧は米国の背を強く押して戦闘を止め、救える命を救う役割を果たしてもらいたい。

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