神戸の学生音楽サークル「ポートジュビリー」で活動するなど神戸と縁の深かったシンガー・ソングライターの谷村新司さんには、神戸に行きつけの店があった。イタリア料理店「ジェペット」(神戸市中央区)。村上春樹さんの小説に登場する老舗イタリアン「ピノッキオ」の姉妹店だ。代表の山中崇裕さん(68)は谷村さんを「お兄ちゃん」と呼んで慕い、谷村さんもメールの返信にはいつも「兄より」と添えた。
■高級店より居酒屋や町中華
ピノッキオの名物ピザは、学生時代から谷村さんのお気に入りだった。約30年前、一人でふらりと来店した谷村さんに山中さんが声をかけ交流が始まった。近くにあるジェペットを紹介すると「ええやん」と気に入り、コンサートの打ち上げなどでもよく利用するようになった。
年に一度は会い、食事やゴルフに出かけた。神戸・三宮の街にもよく繰り出した。「堅苦しくないところに行こうや」。谷村さんはそう言い、高級店より庶民的な居酒屋や町中華を好んだという。
■「漫才のようだった」
愛妻家としても知られた谷村さん。「明石海峡大橋を妻に見せてあげたい」というリクエストに、結婚記念日、山中さんが大橋を望むホテル「シーサイドホテル舞子ビラ神戸」の部屋を押さえたこともある。
山中さんは「僕は音楽に詳しくないから一緒にいると気楽だったのかも。2人でしゃべっている時はわいわいがやがや漫才のようだった。僕にとっての、青春のような時間だった」と思い出をかみしめた。(藤森恵一郎)