「髪洗ってる?」同級生に癖毛からかわれ… 20年以上「私は汚い」と思い続けた女性「言った本人は誰も覚えてない」

子どもの頃、やゆされた髪。今も自分を汚いと思い続けている

 小学生の頃に癖毛をクラス中からいじられて、20年以上たっても個性とは思えず、とても気にしています。癖毛が原因で菌扱いされたので、自分自身を汚いとも思い続けています。(※ルッキズムを巡るアンケートの回答)

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 道野由佳さん(仮名、37歳、兵庫県)の髪は、ゆるやかにウエーブしている。自分ではそれほど気にしていなかったが、小学校5年生のとき、同級生にからかわれ始めた。「私はみんなとちょっとちがうのかな。変なのかな」と思うようになった。

 周囲の言動はエスカレートしていった。前髪が「S字になってる」「エスッてる」と嘲笑された。悪意を持って聞いてくる子もいた。

 「ちゃんと髪の毛洗ってるの?」

 他にも癖毛の同級生はいる。なぜ、自分だけそんな風に言われるのか分からない。味方をしてくれる子はいない。どこにも居場所がなかった。

 例えばすれちがうとき、揺れた髪が同級生に当たると、まるで汚いものに触れたかのように騒がれた。

 「次の人にタッチして、別の人にうつす。菌に触ったみたいに」

 いつも20分くらいは家で鏡の前に立っていたと思う。どうにかまっすぐにしたくて、ヘアブラシでのばしながらドライヤーの風をあてた。その直後はましになっても、またすぐに元に戻った。

 「ひたすら癖毛をなおそうとしていました。まあ、どうやっても、なおらないんですけど」

 毎日、髪を2回洗った。シャンプーを泡立て、しっかり洗ったはず。それなのに「本当にきれいになったかな」と不安になり、もう一度ポンプに手が伸びた。

 「私は汚い」と思うようになっていた。

■つくり笑い

 6年生の秋くらい。体育の授業でグループに分かれることになった。あるクラスメートに言われた。「一緒は嫌」。耐えきれなくなって、涙があふれた。泣くのは初めてだった。

 「まだクラスの中でも話をしてくれるというか、仲良くしてくれているというか。その子は、そうだと思っていたから」

 授業が終わり、学級会が開かれた。担任の先生が進行役で、クラスの誰かが「笑ってるからいいと思ってた」と説明した。自身は何も言えず、じっと座っていた。

 どれほどひどいことを言われても、笑って受け流すようにしていた。笑顔をつくる以外に、どうしていいのか分からなかった。「やめて」とは言えなかった。完全に無視される方が怖かった。

 「ただいじられているだけ、いじられキャラなんだと思うようにして、乗り越えようとしていたのかもしれません」

 

■癖毛の少女

 

 大人になった今、髪に対する心境も変わりつつはある。少し前、電車で癖毛の女の子を見かけた。たぶん、中学生か高校生。前髪に指で触れ、しきりに気にしているようだった。彼女の姿に思った。

 「かわいいなって思う自分がいたんです。まっすぐじゃなくても。すごい自然というか、ナチュラルな感じで」

 癖毛の人を見かけると、自分を見ているような気がして苦しくなっていたはずなのに。「私も年いったんかな、と思いました」

 とはいえ、傷は消えない。2回のシャンプーはさすがに髪が傷むからやめたが、今でもハンドソープでしつこく手を洗ってしまう。「私は汚い」。その思いが、拭えない。

 癖毛をやゆしてきた人たちに、もし伝えられるとしたら。せめて、知っておいてほしい。

 「ちょっとした一言でも、こうやって一生残る。私の癖毛のこと、言った本人たちは、誰も覚えていないと思うけど」 (大田将之)

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 神戸新聞のシリーズ「すがたかたち ルッキズムを考える」では、容姿を巡る体験談やルッキズムに対する声や意見を取り上げています。私たちはなぜ、人の容姿にあれこれと口を出してしまうのか。なぜ、見た目がこんなにも気になるのか。どうすれば傷つけてしまう前に立ち止まることができるのか-。そんな問いについて考えながら、見た目にコンプレックスを抱く「当事者」らにお話をうかがいました。

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