イルカとの共存どうする? 長崎・南島原で相次ぐ漁業被害 大事な「観光資源」に漁師ら苦悩

南島原観光で人気のイルカウオッチング(南島原市提供)

 マダイなどの好漁場として知られる長崎県南島原市沖の早崎瀬戸周辺で、刺し網にかかった魚をイルカが食い逃げするといった漁業被害が続いている。近年、イルカが増えているとの情報もあり、漁業者からは今後の被害拡大を懸念する声が上がる。一方、同じ海域でのイルカウオッチングは地域の重要な観光資源でもあるため、表立って被害を訴えることができず、漁業者の悩みは深い。
 10月中旬、南島原市加津佐町の加津佐漁港で大量のイワシが死んでいるのが見つかった。同じ時期に早崎瀬戸を挟んで対岸の御領漁港(熊本県天草市五和町)でも大量死を確認。周辺海域で赤潮などの発生はなく、長崎県や南島原市は「酸素不足による窒息死」と結論付けた。

10月中旬に発生したイワシの大量死=南島原市、加津佐漁港

 それでは、なぜ酸素不足による窒息死が発生したのか-。地元ではイルカが誘発した「捕食者説」を唱える人が多い。島原半島南部漁協加津佐支所の木村大地支所長によると、大量死発生の数日前、漁港周辺では40、50頭のイルカが確認されていた。「イワシを捕食するハガツオをイルカが港内に追い込んだ結果、イワシが酸欠状態になったのではないか」と推測する。
 よく晴れた11月初旬の朝、早崎瀬戸に面した海岸から海を眺めると、イルカの背びれがいくつか見えた。「イルカの背びれを見た瞬間、その日の漁は諦める。魚が逃げてしまうもん」。近くにいた地元漁師は当たり前のようにつぶやいた。
 熊本県博物館ネットワークセンターによると、有明海の出入り口に位置する早崎瀬戸一帯では、ハンドウイルカがほぼ年間を通して暮らしている。数百頭の群れで餌を求めて回遊。この海域では餌となる魚が豊富なことに加え、漁業者と共存関係にあることが、多くのイルカが暮らす背景にあると言われている。
 だが漁業被害は長年続いてきた。南島原市西有家町の西有家漁協では十数年前、長崎大の協力を得て、刺し網に音波装置を設置し、イルカを追い払う実験をしたことがある。このときは実験期間が短く、有効なデータは取れなかったが、同漁協は「イルカは頭がいい。刺し網にかかった魚を自らは絡まないように上手に食べる。漁師がカンカンと音を鳴らしても逃げない」と感心する。
 地元漁師は「昔は全国的に漁師がイルカを捕獲していたようだが、(1980年の)壱岐の事件(壱岐イルカ事件)以降、環境保護団体の活動が活発になった。対策は難しい」とあきらめ顔で話す。
 しかも南島原市のイルカウオッチングは年間1万人以上の観光客を呼び込める「ドル箱ツアー」(観光関係者)。漁業とツアー船を兼業している人もいるため、「駆除なんて絶対言えない」と苦笑いする。
 市水産課の福田好則課長は「今のところ漁業者から被害の報告も上がっていない。仮に対策を進めるとしても、イルカと共存している地域だけに慎重にならざるを得ない」と話していた。


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