サッカーJリーグ1部(J1)ヴィッセル神戸のリーグ制覇を願ったまま、今年2月に107歳で旅立ったサポーターがいる。本拠地ノエビアスタジアム神戸(神戸市兵庫区御崎町1)にほど近い高齢者施設に入っていた竹本繁野さん。「命つきるときまでサッカーを楽しみなさい」。スポーツの本質を突くエールが、初優勝へひた走るイレブンの背中を押す。(有島弘記)
### ■沸き立つ愛
竹本さんは1915(大正4)年生まれ。Jリーグなどが各地の高齢者施設で進める応援プロジェクト「Be supporters!(ビーサポーターズ)」が転機になった。
入所先のオリンピア兵庫(同市兵庫区小松通5)のケアリーダー、稲田麻里さん(41)は今でも不思議に思う。「普段はずっと寝て過ごし、起きること自体が大変だったはずなのに観戦会になると楽しそうで。(画面の選手から)生命力が移るというか」
2022年6月からの観戦会のたび、竹本さんはユニホーム姿で、多い時には40人とプロジェクターを囲んだ。ゴールが決まると拍手。食欲も増し、野菜たっぷりの焼きビーフンをぺろりと平らげたこともあった。「あの姿はヴィッセルへの愛」と稲田さんは思い返す。
「命つきるときまで-」は昨季、竹本さんがチームに送った手書きメッセージ。当時1部残留を争っていたヴィッセル神戸の選手たちを後押しした。
今季は施設を挙げてブラジル人選手の応援に力を入れ、竹本さんもポルトガル語の勉強に意欲を見せていた。「幸運を」を意味する「ボアソルチ」を覚え、DFトゥーレルらの応援に備えた。
今年1月、単語帳をめくりながらエールを口ずさむ様子を、稲田さんが録画している。
竹本さん「頑張れ、頑張れ」
稲田さん「頑張れと言いに行くの?」
竹本さん「行きましょ、(ノエスタに)連れて行ってください。トゥーレル頑張れ」
この動画の半月後、竹本さんは今季の快進撃を目にすることなく、息を引き取った。108歳の誕生日まで1週間。老衰だった。
稲田さんのスマートフォンに残されたラストメッセージはその後、施設職員とヴィッセル神戸の通訳が大学の同級生だった縁もあって選手たちに届いた。動画を見たトゥーレルらは7月、施設をサプライズ訪問し、入所者やスタッフを喜ばせた。 ### ■広がる活力
竹本さんの姿は稲田さんの生きる力にもなった。
21年春、新型コロナウイルスで同僚男性を失った。まだ30代。ヴィッセル神戸のサポーターで、一緒に観戦する仲だった。仕事以外は自宅に引きこもるようになっていた稲田さん。「(竹本さんが)元気を分け与えてくれた。何かをしようと、みんなを前向きにしてくれた」と話す。
ヴィッセル神戸は勝ち点2差でリーグ首位に立ち、残り3試合。早ければ24日に初優勝が決まる。20年元日に手にした初タイトル、天皇杯全日本選手権に続く快挙だ。稲田さんは当時、チーム、サポーターの結束の強さを感じたという。「今回も家族のように一致団結して優勝してほしい。繁野さんたちも空から見ているはずです」。正念場のピッチに、天からも声援が注ぐ。
◇ 【Be supporters!(ビーサポーターズ)】 健康食品を手がけるサントリーウエルネス(東京)とサッカーJリーグが2020年に始めたプロジェクト。高齢者施設利用者が地元クラブのサポーターになることで、心身の健康を高めてもらう狙いがある。同社によると、全国約160施設、延べ約6千人が参加している。